第19章 scene4:宴会場
ぼんやりと考えていると、いつから僕が起きてたことに気付いていたのか、
「中、しっかり洗っとけよ? 後が厄介だからな」
憮然とした口調で言うと、僕を抱いていた腕をパッと離すもんだから、
「え、ええっ…!?」
僕はバシャーンと物凄い飛沫を上げ、湯船に落とされてしまい…
「な、なんなの…、いきなり…」
いくらアパートのお風呂に毛が生えたくらいの浴槽だとは言っても、突然落とされたら溺れちゃうじゃん…
僕は一気にずぶ濡れになった髪を指で搔き上た。
でも、
「え、あ、あれ…? 嘘、どうして…?」
お湯の中を探してみても、どこにもウイッグは落ちてなくて…
しかもお湯に濡れたせいで、無意識にお顔だって触ってるから、当然メイクだって落ちてるだろうし…
「ね、ね、タオルかなんか貸して…」
僕は傍にあった洗面器でお顔と頭を隠し、長瀬さんに手を伸ばした。
だってHIMEの素顔は、長瀬さん以外は誰も知らないんだもん。
もし見られたりしたら、大変じゃん?
なのにさ、長瀬さんたらさ…
「何やってんだ、お前…」
若干の笑いを含んだ口調で言って、僕の手からあっさり洗面器を取り上げてしまった。
「安心しろ。もう、皆撤収した後だから、今この部屋にいるのは、俺とNINOだけだ」
え?
NINO…?
慌てて周りを見回すと、腰をタオルで隠し、ビーチチェアに寝そべったまま、僕に向かって手を振る“素顔”のNINOがいて…
「え、なん…で…?」
僕が首を傾げると、長瀬さんが一つ溜息を落としてから、
「お前が激し過ぎたせいで、NINOの腰がちょっとな…」
呆れたように言った。
「あ、だから長瀬さんが…?」
「まあな…」
「ごめ…なさい…。僕が気を失ってしまったばかりに迷惑かけちゃって…」
だって仕方なかったんだもん。
どんな効果のあるローションだったのかは知らないけど、あのローションさえなければさ、僕だって普通…ってゆーか、撮影中に意識を飛ばすなんてこと、なかった筈だもん。