第3章 scene1:屋上
仕方ないよね…
相手役の男優さんに先に上がって貰うのには理由がある。
僕の素顔を見られないためだ。
大抵の現場では、僕の入り時間は男優さんよりも先に設定して貰ってるし、上がり時間は男優さんよりも後にして貰ってる。
だって考えてもみて?
これからセックスしようってのに、僕みたいな、どこにでもいるような普通の男が相手役として現れたら、一瞬で興冷めしちゃう人だって、中にはいるでしょ?
勿論、男優さんだってプロだし、なんたってお仕事なんだから、その辺は割り切ってるんだろうけどね?
でも僕は「HIME」だから…
僕は長瀬さんがいるのも気にせずバスローブを脱ぐと、真っ白な下着の上にセーラー服を纏った。
膝上まである靴下を履いて、僕の足のサイズに合わせたローファーを履く。
鏡に映った僕は、どこから見ても清楚な女子高生に見える。
「ね、僕可愛い? 変じゃない?」
鏡越しに長瀬さんに問いかけてみるけど、長瀬さんは僕をチラッと見ただけで、僕の脱いだバスローブを畳んだり、持ち込んだ玩具を拭いたりしてて、返事もろくにしてくれない。
まあでもそれもいつものことなんだけどね?(笑)
僕はセーラー服の上にお気に入りのブランケットを引っ掛けると、机の上に広げたメイクボックスを片付け、長瀬さんに差し出した。
「準備出来たのか?」
「うん。あ、ねぇ、屋上までは当然…」
「階段に決まってんだろ?」
だよね…
正直、セックスした後の階段の昇り降りって、けっこう腰に来るんだけどな…
でもそんなことも言ってられないか、お仕事だし…
僕は最終チェックとばかりに鏡を覗き込むと、鏡に映る自分に向かって魔法の呪文を唱えた。
「僕はHIME…」と…