第3章 scene1:屋上
鏡の前に座って自前のメイクボックスを開ける。
完全にメイクを落とした訳じゃないから、ファンデーションとパールカラーのパウダーで手直しだけ済ませてから、瞼に淡いピンクのシャドーを乗せて、同色のチークをほっぺにも乗せた。
後は唇にグロスを塗るだけ。
シャワーを浴びるために一つに纏めた髪は、丁寧にブラッシングをしてやれば、サラツヤ感が更にアップして、肩の上でサラサラと揺れる。
うん、完璧♪
自己満足気味で鏡を覗き込んでいると、教室のドアがガラッと開いて、衣装のセーラー服を手にした長瀬さんが、大股で僕の方に歩み寄って来る。
せめてノックぐらいしてくれると良いんだけどな…
もう慣れっこだけどさ…
「撮影って屋上でするんでしょ?」
セーラー服を椅子の上に無造作に置く長瀬さんに、鏡越しに聞いてみる。
「ああ、そう聞いてるが?」
「絶対寒いじゃん…」
この寒空の下、ペラペラで、しかも足元がスースーするスカートだけなんて…
せめて厚手の下着でも着れるなら、まだ幾らかはマシなんだろうけど、そうも言ってられない。
どうせセーラー服だって脱がなきゃいけなくなるんだから…
「教室とかに変更出来ないの?」
僕寒いの苦手だし…
「それは無理だろうな。カメラマンがどうしても屋上で、って言ってるみたいだし…」
じゃあ仕方ないか…
なるべく早く終われるように、僕がカメラマンさんの指示通りに動けば良いか…
ただな…
僕、動画は全然平気なんだけど、静止画ってなるとやたらと緊張しちゃって、上手く指示通りのポーズが取れなかったりするんだよな…
これだけは、何度経験しても慣れないの…
はあ…、気が重い…
「あ、ねぇ、相葉さんは? もう帰っちゃった?」
「ああ、つい今しがたスタッフに挨拶だけ済ませて帰ったけど…、何か用事か?」
そっか…、残念…
もし相葉さんが見ててくれたら、苦手なスチール撮影もスムーズに行くかも…、なんて思ったんだけどたんだけど…