第1章 scene1:校舎
早朝も早朝…
まだ夜も開けきらないうちから、コンビニの前で欠伸を噛み殺す僕の前に、一台のワゴン車が停り、助手席の窓がゆっくり下がると、見覚えのある男が顔を出す。
「乗って?」
男は親指で後部を差すと、再び助手席の窓を閉めた。
僕は言われるがままワゴン車の後部座席に乗り込むと、独り占めとばかりに、広いシートの真ん中に座り、待つ間にコンビニで買ったおにぎりのラップを捲った。
「あ、ねぇ、今日の撮影ってどんなん?」
海苔のパリッとしたおにぎりを頬張りながら、助手席に座る男の肩を叩く。
「ん、ああ…、それならそこにファイルに挟んであんだろ?」
「え、どこ…?」
言われて足元を見ると、機材の入ったボックスの上に無造作に置かれたファイルがあって…
これか…
僕はそれを手に取ると、おにぎり片手にパラパラと捲った…けど、すぐに閉じた。
一応、ご丁寧な絵コンテやら台本も用意はされているけど、僕達…というか、特に”僕”にはあまり必要がない。
だって僕がすることと言ったら…一つしかないし、それだってほぼ相手任せだし…
僕は最後の一口を口の中に押し込むと、おにぎりと一緒に買ったペットボトルのお茶で流し込んた。
そして車が信号待ちのタイミングで最後部のシートに手を伸ばすと、クリーニング店のタグが付いたままの衣装を二着、手に取った。
「今日の衣装どっち?」
「ああ、それなんだけど、お前的にはどっちが良いかなと思ってさ…」
僕の問いかけに、助手席の男ではなく、運転席の男がミラー越しに僕を見ながら答えるから、僕は二着を交互に身体に宛がいながら、一応悩んでいる”フリ“をして見せる。
「うーん…、どっちも捨てがたいんだけど…」
口ではそう言いながら、どうせこんなの着たところですぐ脱ぐんだから、実際は”どっちでも良い”ってのが僕の本音で…
「僕じゃ決められないから、相手の人に決めて貰うことにするよ」
そんなことより、今は少し寝たい…
衣装を元に戻した僕は、シートを目一杯倒すと、ブランケットに包まって瞼を閉じた。