第18章 scene4:露天風呂
旅館に着いてからすぐに撮影に入ったりとか、何かと慌ただしくしていたせいで、全然スマホの確認をしていなかったことを思い出した。
って言っても、よっぽどのことがない限り、僕のスマホなんてただの玩具変わんないんだけどね?
だから、”どうせ…”なんて思いつつも、持っている以上一応は…のつもりでスマホを開いたんだけど…
[え、嘘…、なんで?」
スマホの画面を見た瞬間、僕はテーブルをひっくり返してしまうんじゃないかってくらいの勢いで飛び起きた。
そりゃさ、お互い番号だって交換したし、メールでのやり取りだってしたことあるけど、電話なんて…初めてかも。
僕はチラッと時計を見上げると、まだバイトの時間じゃないことを確認してから、思い切ってリダイヤルボタンを押した。
耳に宛てたスマホからコール音が聞こえて…
その間、僕の心臓は全力でフルマラソンを終えた後みたくドキドキしていて、ついでに喉もカラカラい乾いてしまって、リュックに突っ込んであったペットボトルを手に取ろうとしたその時、
『あ、大野くん?』
スマホからちょっとハスキーな声が聞こえた。
「う、うん…。あの、電話…何だった?」
『いや、特に用事はなかったんだけど、バイト三日も休みとか珍しいな、って思って…』
あ、そっか…
店長には家の都合でって言ってあったけど、櫻井くんには何も言ってなかったっけ…
「実は法事で…」
事細かに理由なんて考えてなかった僕は、咄嗟に思い付いた噓でその場を取り繕った。
「そうなんだ? じゃあ、風邪とか、そう言うんじゃないんだよな?」
「うん…」
「そっか、なら良かった」
え…、それってもしかして櫻井くん、僕のこと心配してくれてた、ってこと?
噓…、もしそれが本当なら僕、嬉し過ぎるんだけど…
だって声が聞けただけでも舞い上がっちゃうくらいなんだよ?
なのに櫻井くんが僕のことを気にかけてくれた、なんて知ったら…
どうしよう…
僕どうにかなってしまいそうだよ?