第17章 scene4:温泉宿
長瀬さんが荷物の積み替えを終え、城島さんと何やらお話をしてから、助手席に乗り込む。
僕はずーっと向け続けられるカメラを気にしながら、長瀬さんの肩を叩くと、
「ねぇ、今日の撮影って温泉て聞いてるんだけど、他にも…?」
前もって聞かされていた撮影スケジュール以外に、何か別の情報があるのか聞いてみた。
だってさ、僕が聞いてたのは、撮影場所が温泉であることと、相手役の男優さんがいない、ってことくらいで、車を乗り換えることも聞いてないし、知らないお兄さんが同行することだって聞かされていない。
もっとも、普段からあんまり細かくは聞かない僕だけどね?
でもあまりにもいつもと違うと、やっぱり不安になっちゃうんだもん。
なのにさ、長瀬さんたらさ、
「スケジュール自体は、何の変更もないが?」
シレーっと言うもんだから、余計に隣でやたらニコニコするお兄さんの存在が気になっちゃうじゃん…
これ以上長瀬さんに聞いたって無駄だと判断した僕は、ずっとこちらを向いているカメラのレンズを手で覆うと、
「あのぉ…」って声をかけてみたは良いけど、次の言葉が見つからなくって…
「えっと…、その…、んと…」
思いっきり困惑の表情を浮かべ、首を右へ左へと傾げた。
だってさ、初対面の人なのに“あなた誰ですか?”なんて聞けないじゃん?
しかも相葉さんのお友達さんとなると、余計に失礼なこと出来ないし…
すると、そんな僕の様子を察してか、お兄さんがスッとカメラを下ろし膝の上に乗っけると、薄いグレーのジャケットのポッケに手を突っ込んだ。
はっ…、この展開ってまさか…?
え、え、困る…
だってまだ僕、櫻井くんにちゃんと“好き”って言ってないんだよ?
それにこんな格好のままでなんて…、色々困っちゃうもん。
せめてお着替えだけでも…って、そんなことしてる間はない。
このまま、意味も分からないまま殺されちゃうなんて…
「そんなのいやっ…!」
僕は両手で頭を抱え、身体を小さく丸めた。