第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
僕は櫻井くんに背中を向けたまま、指の先でそっと唇に触れた。
ここ…に、櫻井くんの唇が…
夢…じゃないよね?
僕達…キス、しちゃったんだよね?
どうしよう…、これって喜ぶべき、だよね?
あ、でも櫻井くんはどう思ってるんだろ…
怒ってる?
そうだよね…、一応AV業界の端っこではあるけど、お仕事させて貰ってる僕は、それなりに…ってゆーか、日常的にキスなんてしてるし、もっとディープなキスだって何度だってして来てるけど、櫻井くんはそうしゃないもんね?
僕とは違って、経験だってあんまり多くなさそうだもんね?
なのにこんな形でキスしちゃうなんて…、怒って当然だよね…
「あ、あの…、事故みたいなもんだから…。だから、あの…」
気にしないで…って、あ…れ…?
僕の聞き違い…じゃないよね?
だってまさかそんなこと…
「嘘…でしょ?」
だってさ、だってだよ?
普通さ、事故みたいなもんでもキスはキスじゃん?
そりゃさ、僕が喜び過ぎなのかもしんないし、気にし過ぎなのかもしんないけどさ…
でも、普通寝る?
それもさ、人のお布団で大の字になって、大いびきまでかいちゃってさ…
ちょっと失礼じゃない?
もぉ…、僕のこの気持ちは、どうしてくれるのさ…
でも…
「ふふ、可愛い♡」
この間はそれどころじゃなくてゆっくり見れなかった(いや、見てたけどね?)けど、櫻井くんの寝顔、すっごく可愛い♡
僕はそーっと手を伸ばすと、開いては閉じてを繰り返す櫻井くんの唇を、指でそっとなぞった。
「ふふ、柔らかい♡」
この柔らかい唇が僕の唇に…?
僕は櫻井くんの唇をなぞった指で自分の唇をなぞった。
でもそんなんじゃ全然足りなくて…
眠ったままの櫻井くんにそっと顔を近付けると、今にもお口から飛び出しそうな心臓に、“落ち着け”って何度も言い聞かせながら、唇を寄せた。
でもその時…