第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
僕の返事を待つことなく、櫻井くんの手が僕の顎にかかり、俯きがちな僕の顔がグイッとばかりに上向かされる。
櫻井くんはプロの男優さんとは違うから、当然のことなんだけど、ちょっぴり強引だ。
そして、
「目、閉じろよな…」
ぶっきらぼうに言って、唇を尖らせちゃうとこも、やっぱり強引で…わがままだ。
お試しって言ったって、僕達にとって初めてのキスなんだから、少しくらい優しくして欲しい、って思ってしまう僕も、櫻井くんと同じくらいわがままだ。
僕は上向いた顔はそのままに、ギュッと瞼を閉じた。
目を閉じたせい…なのかな、心臓の音が余計に煩く聞こえて…
このままだと僕、櫻井くんとキスする前に、お口から心臓が飛び出してしまいそうだよ…
「いいか? いくぞ?」
「う、うん…」
顎にかかった手とは別に、櫻井くんの手が僕の腰に回って…
僕達の身体がピターッと密着するくらいに引き寄せられた。
えっ…、ちょっとそれは…まずくない?
僕は咄嗟に腰を引くと、一歩後ずさった。
それがいけなかった…んだよね?
バランスを崩した僕達は、そのままバッターンとお布団の上に倒れ込んだ。
痛った〜い…
ってゆうか、下の階に誰も住んでないから良いものの、こんな時間にこんな大きな音…、近所迷惑じゃん!
…って、えっ…?
何…、この僕の唇に触れている、ムニッとした感触…
ま、まさか…
僕は恐る恐る瞼を持ち上げると、超、超、ちょーーー至近距離にある櫻井くんと、バッチーンと目が合って…
う、嘘…
夢…じゃないよね?
僕達今…キス、してる?
うっそ〜ん♡
…って、ポッとなってる場合じゃない!
僕は全力で櫻井くんの肩を押すと、僕の上にズッシリと乗っかっていた櫻井くんを押しのけ、痛む腰(松本さんのせいで痛めたのがまだ完治してなくて…)を摩りながら身体を起こすと、櫻井くんに背中を向けた。
見られたくなかったんだ…、ついついニヤけてしまう顔を…
だって、事故みたいなもんとは言え、キスしちゃったんだもん、恥ずかしいじゃん?♡