第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
心臓が…ぶっ壊れちゃうんじゃないか、って…
このまま僕死んじゃうんじゃないか、って…
それくらい、胸がドキドキして、息が苦しかった。
ただでさえ、櫻井くんが僕の部屋にいるってだけで、緊張しちゃうのに、その櫻井くんが僕の目の前…ちょっとバランスくずしちゃったりなんかしたら、キスしちゃいそうな距離にいて、僕の髪をタオルで拭いてくれてるなんて…
とてもじゃないけど、平常心ではいられなくて…
「あ、あの…、僕自分で…」
櫻井くんの手を止めようとするのに、櫻井くんてば、
「いいから…」なんて言って、僕にタオル貸してくんないんだもん。
もうどうして良いのか分かんないよ…
「そう言えばさ、例の話しなんだけどさ…」
「例の話し…って…?」
「だからさ、その…“試す”って、アレだよ…」
「あ、ああ…」
そう言えば、ニキビくん事件やらなんやらで、すっかり頭から抜け落ちてたけど、確かそんなこと言ってたような…
「今試してみない?」
え…?
今試すって…、この状況で、どうやって?
「あ、あの…」
「とりあえずさ、ハードルは低い方が良い…っつかーかさ、キス…とかしてみる?」
え、ええっ…?
キ、キ、キ、キスって…、ちょっと待って…?
確かにキスならハードルは低いと思うけど、僕…なんの準備もしてないよ…
「どうする?」
「どうする…って…」
どうしよう…。
僕、何て答えたら良いの?
キスはしたいけど、だけど…
「あ、あの…、じゃあ僕、歯磨き…」
そうだよ、キスの前にはちゃんと歯磨きしておかないと、お口臭いって思われちゃうかもしれないもんね?
「ちょっと待ってて…?」
「いいよ、そんなの気にしなくて…」
「で、でも…」
好きな人に、お口が臭いせいで嫌われたくないもん。
「あのさ、キスって言ったって、別にそこまで濃厚なのするわけじゃねぇし、ちょっと触れるだけだろ? 気にすることないよ」
そりゃそうかもしんないけどさ…
櫻井くんて、恋する乙女心が全然分かってないのね?