第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
「ぼ、僕ん家来たってカップラーメンくらいしかないし…、それに櫻井くん家みたく広くないし…」
別に比べることでもないんだろうけど、大きなお家で暮らすお坊ちゃまを招待するのには、僕のお部屋はあまりにもお粗末過ぎるもん。
なのに櫻井くんは、僕の言葉なんて全く耳に入っていない様子で…
「決まりな? あ、因みになんだけどさ、今日は俺、醤油ラーメンの気分なんだけど、ある?」
「ある…けど…」
「やったね♪ じゃあ急ごうぜ? 俺、腹減り過ぎて死にそうなんだ」
え、死にそうって…大変じゃん!
とは、さすがの僕もなれなくて…
僕は再び先を歩く櫻井くんの後を、トボトボと…重い足を引き摺るようにして着いて歩いた。
だって仕方ないじゃん?
僕のスマホは、櫻井くんの手に握られたまま、一向に僕の手元に戻って来る気配がないんだもん。
「はあ…、参ったな…」
僕は一人溜息を落とすと、アパートの今朝の様子を、思い出せる限り頭の中に浮かべた。
うーんと、洗濯物はちゃんと取り込んだし、HIMEグッズが入ったクリアボックスは、しっかり押し入れの中だし…
多分大丈夫と思うけど、やっぱりなーんか不安なんだよな…
なんて考えてるうちに、僕達はアパートのすぐ前まで来ていて…
「あのさ、ちょっとここで待っててくれる?」
「いいけど…、俺、別にちょっとくらい散らかってても気にしないぜ?」
うん、それは櫻井くんの部屋を見てるから分かる。
まるで台風でも通り過ぎた後みたいな散らかりっぷりだったからね?
でも僕が気になってるのはそんなことじゃない。
「い、いいから待ってて!」
僕は櫻井くんに言い置くと、普段は抜き足差し足忍び足で登る階段を、一気に駆け上がった。
鍵を開け、暗い部屋に明かりを灯すと、大急ぎで寝室(…って呼べる程の部屋でもないけど)に駆け込んだ。
「やっぱり…」
不安的中!
僕はカーテンレールに引っ掛けたピンチハンガーから、淡いピンクのレース地のパンティを外し、引きっぱなしのお布団の下に隠した。