第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
僕は後ろ髪を引かれる思いで櫻井くんに手を振ると、スマホと睨めっこをしながら歩き始めた。
でも…
「大野くん前!」
櫻井くんの声に驚いてパッと顔を上げると、すぐ目の前に、僕よりもうーんと背の高い電信柱が直立不動の格好で立っていて…
「ながら歩きは危ないでしょ? 貸して?」
呆然とする僕の手から、櫻井くんがスマホを取り上げた。
「ねぇ、大野くんお薦めのラーメン屋さんて、こっちで良いの?」
「う、うん…、そうだけど、でも櫻井くん家逆方向になっちゃうし…」
僕のスマホを手に、スタスタと先を行く櫻井くんを追いかけ僕が言うと、櫻井くんは僕を振り返ることもなく、
「あー、けっこう走ったし、腹減ったな…」
背中を向けてるから顔は見えないけど、大袈裟なくらいにお腹を摩る仕草をした。
「あー、ラーメン食いてぇ」
「櫻井く…ん…?」
「なあ、奢ってくんない?」
「え…、奢るって…、僕が? 櫻井くんにラーメンを?」
何で?
僕が聞き返すと、不意に櫻井くんが足を止め、振り返ると同時に人差し指で僕のおでこをツン…と突いた。
しかも、すっごーく意地悪な顔をして…
「当然だろ? 俺、今日二回も大野くんのこと助けたし、ラーメンの一杯くらい、安いもんじゃない?」
そ、そりゃ、櫻井くんにはピンチを救って貰ったし、お礼するのは当然だけど…
「で、でも、帰り遅くなると、お家の人心配しない?」
僕は一人暮らしだから、気にしたこともないけど、櫻井くんはそうじゃないから…
だってあんな大きなお家に住んでるお坊ちゃまなんだもん…
心配するのが普通…だと思ってたんだけどな…
「ぜーんぜん♪ つか、親出張行ったっきり帰って来ねぇし…」
「そ、そうなの?」
知らなかった…
悪いことを聞いてしまったような気がして、俯いてしまった僕の腕を、櫻井くんが掴む。
「え…?」
「え、じゃなくてさ、ラーメン宜しくな?」
宜しくな…って、そんな笑顔向けられたら僕…
断れないじゃん(笑)