第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
離れてしまった手を追いかけたい気持ちを抑えながら、僕はリュックを下ろし、スマホを取り出した。
「僕、すぐ迷子になるから、家の場所だけはマップ上に登録してあるんだ♪」
自慢げに言うと、櫻井くんが隣で、
「へえ〜、大野くんにしてはやるじゃん(笑)」
ちょっぴり驚いたように笑った。
ってゆうか、“大野くんにしては”って何?
僕だってやる時はちゃーんとやる子なんだからね?
失礼しちゃうな…
「あ、やっぱりだ。そんなに離れてないね」
「そうなの? けっこう走ったつもりだったけど…、本当に大丈夫なの?」
あーもぉ…、僕ってそんなに信用出来ない?
「大丈夫だってば…」
僕をどうしても信用出来ないのか、しきりに首を傾げる櫻井くんの腕を引っ張ると、僕はそこにしっかりと自分の腕を絡めた。
ふふ、どさくさに紛れ、ってやつね(笑)
「行こ? あ、でもお腹空かない?」
余分な運動をしたせいか、いつもは静かな筈の僕のお腹さん達が、さっきから僕のお腹の中で大騒ぎをしている。
「確かに…」
「でしょ? じゃあさ、途中でラーメンでも食べてかない? すっごい美味しいお店があるんだ♪」
…って言ってから、僕はある事に気が付いた。
僕は、すっかり櫻井くんがアパートまで送ってくれるもんだと思って話を進めてるけど、それだと櫻井くんの家から遠ざかってしまうし、当然櫻井くんの帰る時間も遅くなってしまう。
そんなのダメじゃん…
ニキビくんから僕を守ってくれただけでも感謝しなきゃなのに、これ以上迷惑はかけられないよね…
僕は櫻井くんの腕に絡めた腕をそっと解くと、
「やっぱり今度にしよう…。僕、ここからなら一人でも帰れるから…」
そう言って、リュックを背負った背中を、櫻井くんに向けた。
ホントはさ、もう少し一緒にいたいけど、そんなわがまま許されないもん。
わがまま言って困らせて、櫻井くんに嫌われたくないもん。