第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
えっ…、と振り返ろうとした時、僕の腕が物凄い力で引っ張られた。
この手って…
もしかして、ニキビ…くん?
確かに覚えのある、汗ばんだ手の感触に、僕の背中にゾクゾクッとオカン(←冗談言ってる場合か!)が…じゃなくて悪寒が走る。
「あ、あ、あの…、僕に何か…」
この状況で聞くことじゃないと思うけど、一応聞いてみる。
すると、僕の腕を掴む手に更に力が込められ、僕は肉厚な胸の中に引き込まれてしまった。
手と同様、汗でしっとりと濡れたシャツは、想像以上の体臭を放っていて…
うぅ〜、気持ち悪いよぉ…
「離せ…」
今まで聞いたこともないような、低い声で櫻井くんが言う。
けどニキビくんは僕を解放するどころか、ぎゅうぎゅう締め付けて来て…
「さ、櫻井…く…、助けて…」
このままじゃ僕…、ニキビくんに殺されちゃうよ…
それまで感じてなかった(わけじゃないけど…)恐怖が込み上げてくる。
「ああ、やっぱりお兄さん可愛いねぇ…。それに…」
ニキビくんが、ブツブツの鼻先を僕の髪に埋め、クンと匂いを嗅ぐ。
「何とも言えない甘い匂いだ…。もっと嗅かせてくれる?」
「い、嫌だっ…、ヤダヤダヤダッ…」
僕は恐怖と嫌悪感に身体を震わせながら、それでも目一杯両手両足をばたつかせた。
そして櫻井くんも…
「おーまーえー!」
拳を握った手をブンと一振りすると、助走を付けてニキビくんに飛びかかった。
僕の頭の上で、「グエッ」と、蛙が潰れる様な声がして、僕を締め付けていた手が急に緩んで…
「大野くん、今のうち!」
すっかり腰の抜けてしまった僕の手を、櫻井くんの手が掴んだ。
「う、うん…」
僕は、お股を両手で押さえながら、プヨンプヨンの身体でピョンピョンするニキビくんを気にしつつも、櫻井くんに引き摺られるように、足を縺れさせながら走った。
だって櫻井くん、どんくさいと思ったのに、逃げ足だけはとても早いんだもん…
僕、追いつけないよ…