第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
「あ、ねぇ、櫻井くんて自転車じゃなかった?」
駐輪場を通り過ぎる櫻井くんを呼び止めるけど、櫻井くんは自転車の存在を忘れてしまったのか、足を止めることもなく…
「なあ、風呂寄ってかない?」
通り沿いにあるスーパー銭湯を指さした。
「お、お風呂…?」
「ほら、さっき大野くん言ってただろ? 男でも興奮するのか…って」
「う、うん…」
言ったよ?
確かに言ったけどさ、お風呂って…いきなりじゃない?
「だから試しに一緒に風呂でもどうかなと思ってさ…。ダメか?」
「ダ、ダメってことはないけど…」
うん、ダメじゃない。
寧ろ、櫻井くんと一緒なら、苦手なお風呂も好きになれるかもしんれない。
でもさ、でもさ…
「替えのパンツも持ってないし…」
HIMEの息子くんの形から、お尻の穴の大きさまで熟知してると豪語する櫻井くんだよ?
一緒にお風呂なんか入ったら…
きっと僕が“HIME”だって知られちゃう。
いずれ分かることかもだけど、今だけは…絶対ダメ。
「また今度にしない?」
「何でよ…」
「な、何でもだよ…」
「ふーん…、じゃあまた今度にすっか…」
ホッ…、良かった…
ガッカリ…してるわけじゃないんだけど、子供みたく唇を尖らせる櫻井くんの隣で、僕はホッと胸を撫で下ろした。
だってさ、何事も“心の準備”ってのが必要だしね?
それに…
櫻井くんが本当に女の子にしか興味がないのか、それとも相葉さんみたくどっちもイけるバイなのかを確かめる方法は、他にも沢山ある。
僕は人通りが少なくなって来たタイミングを見計らって、櫻井くんのシャツの裾を引っ張った。
「あの…さ…」
「なに?」
「キス…」
「キスがどうかした?」
「だから、その…キス…」
言いかけたその時、僕の背後でジャリッて音がして、振り向いた櫻井くんの顔が、赤鬼さんみたく険しくなった。