第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
「と、と、と、とにかく! 今のご時世、女だろうが男だろうが、見境なく襲って来る奴もいっから、あんま無防備にしてんな、ってことだよ」
「わ、分かった…、気をつける…よ…」
僕が言うと、櫻井くんは鼻をフンッと鳴らして、
「分かればよろしい」
僕の肩をポンッと叩いた。
なんだろう…
僕も良く“おじいちゃんみたい”って言われること多いけど、今の櫻井くんだって相当おじいちゃんみたいで、思わず笑ってしまいそうになるのに、櫻井くんの手が僕の肩に触れた途端、白馬に乗った王子様(←例えが古い!)みたく見えちゃって…
思ったよりも広い背中に、胸がキュンキュンしちゃう。
だってさ僕のこと、ちょっとは大事にしてくれてる、ってことだもんね?
例えばそれが、沢山いる友達の中の“一人”を思ってのことだったとしても、僕だけに向けられた優しさだと思うと、嬉しくなっちゃうんだもん。
僕…、勘違いしちゃいそうだよ…
「なあ、一緒に帰らない?」
トラブル続きのバイト時間も終わり、タイムカードを押したところで櫻井くんが言った。
当然、僕の答えは“YES”だ。
方向が違うから仕方の無いことなんだけど、櫻井くんと一緒に帰れるなんて、滅多にあることじゃないんだもん。
でも急に何で?
僕は不思議に思いながらも、疑問よりも喜びの方が勝っていて…
大急ぎでエプロンを外してリュックを背負うと、まだエプロンすら外していない櫻井くんを、足踏みをしながら待った。
僕ってば、まるで遠足を翌日に控えた子供みたいだ(笑)
「お待たせ。行こうか」
「うん♪」
僕達は揃って深夜スタッフに挨拶をすると、ゆっくりとした動きで自動ドアが開くのをもどかしく感じながら、レンタルショップを出た。
不思議なんだけどね、来る前はあんなに憂鬱だった階段が、櫻井くんと一緒だと全然憂鬱じゃなくて(笑)
櫻井くんの横顔に見蕩れていた僕は、危うく階段を踏み外しそうになった。