第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
その理由はすぐに分かった。
「行こうぜ?」
言いながら櫻井くんが掴んだのとは反対の僕の腕を、ニキビくんの汗ばんた手が掴んだ。
「え、あ、あの…」
まだ何か?、と聞き返そうとした僕に、ニキビくんは手に力をこめ、
「本当に良かったよ、お兄さんにも会えたし」
鼻息を荒くして、ついでに目も♡にした。
僕は一瞬背中にゾクッとしたものを感じて、
「は、はあ…、ありがとう…ござ…ます…」
思いっ切り顔を引き攣らせた。
だってさ、だってさ…、汗だか何だかわかんないけど、すっごーくベタベタするんだもん…
僕はニキビくんの手をやんわり払うと、さりげなーくニキビくんとの距離をとった。
すると、僕の反対の腕を掴んでいた櫻井くんが、スッと僕とニキビくんの間に入って来て、
「お客様、早くしないとお目当てのDVD、他のお客さんに借りられちゃいますよ?」
ニヤケ顔のニキビくんをキッと睨み付けた。
超笑顔で…ね(笑)
櫻井くんに睨まれたニキビくんは、見事蛙さん状態になり…、逃げるように暖簾の奥へと消えて行った。
「ったく…、こっちは忙しいっつーの…。構ってらんねぇっつーの…」
櫻井くんが暖簾に向かってアッカンベーをする。
でも僕の腕を掴んだ手はずっとそのままで…
「あ、ありがと…ぅ…」
僕が言うと、慌てたように手をパツと離してしまった。
「ん? あ、ああ…、別に大したことねぇし…」
「でも助かったし…、ありがとう…」
「つか大野くんさ、気をつけた方が良いんじゃない?」
「何…を…?」
櫻井くんの言葉の意味が分からない僕は、やっぱり首を傾げてしまう。
そしたら櫻井くん…
「それ、その仕草だよ」
え、どゆ意味?
「だからさ、大野君てさ、男の割には可愛い顔してるし、変な奴に絡まれやすそうっつーか…」
「可愛い…って、僕が?」
ねぇ、それ本気で言ってる?
だったら僕…、嬉しいんだけど♪