第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
言ってることが全く分からなくて、真剣に首を傾げる僕と、空っぽになったカゴを抱えてたまま、顔を真っ赤にする櫻井くんが向き合い、どれくらいの時間が経ったんだろう…
きっとそんなには経ってないんだろうけど、すっごく長く感じて…
「あのぉ…」
後ろから声をかけられた僕は、背中をビクンと跳ね上がらせた。
「は、は、はい…」
僕がゆっくり振り向くと、そこには常連のお客さんが立っていて…
「この子の出てるDVD、返って来てる?」
青春の象徴(?)でもあるニキビがいっぱいのお顔をニヤつかせて、僕にスマホを差し出して来た。
「えと…、どの子でしょ…う…」
…って、君もかい!
ニキビくんが差し出して来たスマホには、僕…ってゆうかHIMEの超キュートな笑顔(←自分で言うか?)の画像が表示されていて…
「それなら、この奥入ってもらって、右っ側の棚に…」
僕は若干目眩を感じながら、暖簾の奥を指さした。
するとニキビくんは、元々ニヤついていた顔を更にニヤつかせ…
「ずーっと貸出中だったし、いつ返って来るかと思ってたけど、今日来て良かったよ」
そっか…、そうだよね。
別に“人気作”ってわけでもないけど、ゲイ物って取り扱ってる店も少ないし、仮に置いてあったとしても数や種類だって少ないし…
だから入荷と同時に問い合わせが来ることもあれば、定期的に借りる人だっている。
櫻井くんのようにね?
ってゆうか、借りるよりも買ってくれた方が、僕的には嬉しいんだけどね?
だってさ、いくらメイクやウィッグで見た目を変えてたとしても、自分のDVD貸し出したりすんのって、案外恥ずかしかったりするんだもん。
僕はニヤケ顔のニキビくんに営業スマイルを浮かべてペコリとすると、櫻井くんの方に向き直った…けど…
え、なんで?
櫻井くんがすっごーく険しい顔をしていて、まるで睨みつけるようにニキビくんを見ている。
櫻井くん…、もしかして怒ってる?