第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
時間になり、二人してほぼ同時にタイムカードを押してから、スタッフルームから出て、カウンターで返却済みのDVDを整理するバイトくんと交代する。
「お先っす」
引き継ぎを終え、スタッフルームに消えて行くバイトくん達を見送り、山積みになったDVDを前に、櫻井くんと並んでジャンル毎にカゴに分けて行く。
うん、いつもと変わらない光景…の筈だったんだけどな…
「あれ…?」
DVDの受け渡しをする時、たまたま指先が触れた瞬間、櫻井くんが首を傾げた。
「大野くんてさ…」
「…な、なに?」
なんか…嫌な予感…
「いや、綺麗な手してんなと思ってさ…」
「そ、そう…? 普通じゃない?」
僕は至って普通の顔して返事をするけど、内心はそれどころじゃない。
だってさ、こういう時の“勘”って、たいてい当たること多いんだもん。
特に“悪い方の予感”ってやつはね?
僕は仕事に集中するフリをして、視線を櫻井くんから目の前の山積みDVDに向けた。
なのにさ…
「絶対綺麗だって。なんつーかさ、女性的ってわけでもないんだけどさ…」
僕の手をマジマジと見つめるから、自然と心拍数が上がって行く。
そんな風に見られたら、指先が震えてるのバレちゃうよ…
僕は指先に集中する櫻井くんの視線を逸らそうと、大量のDVDを詰め込んだカゴの取っ手を掴んだ。
うん、掴んだよ?
しっかりとね?
でもさ、まさか目一杯詰め込んだDVDの重みに耐えられず、取っ手が外れるなんてさ…思わないじゃん?
想定外の出来事ってやつ…かな。
僕の足元には、物凄い音を立てて落ちたDVDが散乱して…
「あー、お前何やってんだよ…」
音を聞きつけた店長が、店の奥から血相を変えて走って来て、レジに並ぶお客さんにペコペコしながら、僕に“早く片付けろ”とばかりに手をヒラヒラとさせた。
櫻井くんのせいだ。
ぜーったい、櫻井くんのせい。
だって櫻井くんが、僕の手ばっかジーッと見るから…