第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
なのにさ…
「なあなあ、コレ見てくんない?」
わざわざ背中を向けた僕の前に、櫻井くんがスマホを差し出して来て、HIMEとのツーショット写真を僕に見せて来る。
“HIME”の本体(?)でもある、この僕に、だよ?
ほんっと、櫻井くんって鈍感なの?
「超可愛くね? もうさ、天使っつーかさ、マジ女神って感じじゃね?」
「そ、そう…だね…」
「だろ? 俺、マジで惚れちゃいそうだよ」
ああ、そうですか…
その“天使”だか“女神”だか知んないけど、それ“僕”なんですけどね…?
僕は元々丸まった背中が、更に丸くなるのを感じた。
でも…ちょっと待って?
HIMEとのツーショット写真を、こうも自慢げに僕に見せて来るってことは…
櫻井くんは、僕が“HIME”だってことには気付いてない?
だってそうだよね?
もし僕が“HIME”だと知ってたら、普通は見せらんないよね?
櫻井くんは、“HIME”の正体には気付いてない…って事じゃない?
そうだよ、絶対そう!
ホッとした僕は、勢いを付けて椅子ごと身体の向きを変えた。
その時…
「あっ…」
櫻井くんの存在をうっかり忘れていた僕は、すぐ後ろ…それこそ鼻息さえぶつかるくらいの距離に櫻井くんの顔があったことに、思いがけずドキッとしてしまって…
僕は咄嗟に視線を逸らした。
だって…、魅力的なんだもん、櫻井くんの唇って…
キス…したくなっちゃうじゃん?
だから視線だけじゃなく、顔まで逸らしたのに、鈍感な櫻井くんときたら…
「なあ、シャンプー変えた?」
なんて聞きながら、僕の髪に鼻先を埋めて来るから困る。
「か、変えてないけど…、なんで?」
「何かいつもと匂い違うからさ…」
「そ、そう…?」
あ、そっか…
昨日和のお家でお風呂入ったから、だからかも。
「た、多分、入浴剤のせいだよ」
僕は適当に誤魔化した。
ってゆうか、櫻井くん…
シャンプーの匂いまで知ってるのに、僕がHIMEだと気付かないなんて…
ほんっと、鈍感なのね(笑)