第15章 日常6:焦る僕と浮かれる彼
多分、こんなこと初めてじゃないか…ってくらい、バイト先のレンタルショップに向かう足が重かった。
あ、松本さんにズコバコ(←言い方!)された腰は、相葉さんが貼ってくれた湿布のおかげか、すっかり…とまではいかなくても、そんなに痛くはないから、足が重い原因はまた別。
んでもって、その原因も分かってる。
そう、櫻井くんからのメールだ。
だってさ…
だってさ…
返信こそしなかったけど、櫻井くんのメールはどれもこれも、
HIMEがどうだった、とかさ
HIMEがああだった、とかさ
HIMEのことばっかでさ…
ちょっと嫉妬しちゃったってゆーか…
“HIME”は、もう一人の“僕”だって分かってるよ?
でもさ、あんまり“HIMEがHIMEが”って言われるとさ、さすがに僕だって胸の奥がチクンと痛くなるわけでさ…
「はぁ〜あ…、気ぃ重っ…」
僕は、煌々と光る看板を見上げ、深海よりもうんと…うーんと深い溜息を一つ落としてから、目の前の階段を登った。
頼んでもないのに自動ドアが勝手に開き、僕は仕方なくその奥へと足を進める。
「ざまーす…」
カウンターでレジ業務をこなすバイトくんに、気怠さ満点に挨拶をしてから、スタッフルームへと通じるドアを開ける。
誰もいないと思った。
だって、思ったよりもずっと早く着いちゃったし…
だからスタッフルームには、誰もいないって…そう思ってた。
なのにさ、こういう時に限って、
「おっ! 大野くん!」
一番顔を会わせたくないと思ってる人がいたりするんだよね…
うぅ〜、神様って和以上に意地悪だ。
「お、お、おはよ…ぅ…」
僕は顔を合わせることなく、今にも消え入りそうな声で挨拶だけを済ませると、スタッフ用のエプロンをかけ、スマホだけを手元に残してリュックをロッカーに仕舞った。
そして、畳んであったパイプ椅子を開くと、壁に向かって腰を下ろした。
だって、櫻井くんの顔…、見たくなかったんだもん。