第13章 scene3:待合室
キョトンとした僕の前を、テニスプレイヤーもどきのカメラマンさんが、両手をパンパンと叩きながらウロウロする。
すっかり挨拶のタイミングを逃してしまった僕は、ただただ苦笑いを浮かべてその姿を目で追うばかりで…
どうしよう…、一応初対面だし、やっぱり自分からご挨拶するべき…だよね?
一人悶々としていると…
「君っ!」
突然大きな声を出されて、身体がビクンと跳ねた。
「は、はい…」
「そう、君だ、君! 君は自分のことを“ふふ、可愛い♡”とか思っているね?」
え、どうして分かったの?
「でも残念だな…。俺が求めているのは可愛さじゃないんだ!」
「あ、えっと…、じゃあ…HIMEどうしたら…」
「俺が求めているのは、もっと官能的な…」
官能的…って…、なに?
「そう…、股間がズクズクと痛むような、エロチシズムなんだよ」
「は、はあ…」
ますます意味がわかんない…
だいたい、官能とかエロなんちゃらとか…、“男の娘アイドル”の僕には無縁じゃん?
言われたって困っちゃうよ…
僕は縋るような目で松本さんを見上げた。
すると、松本さんは眉間に深い縦皺を三本刻んで、
「松岡さん、時間がない。さっさと始めませんか?」
イライラを隠しきれていない口調で言った。
そっか…、松本さんこの後も仕事あるって言ってたもんね?
え、…ってゆーか今松本さん“松岡さん”って言った?
「あ、あの…松岡さんて…?」
「ん? ああ、この人松岡監督のお兄さんな」
ふーん…、お兄さんね…、って
「え、ええ…っ…?」
松本さんが櫻井くんの従兄弟さんだったことにも驚きだったけど、松岡監督さんのお兄さんがカメラマンさんだったって…
なんだか今日は驚きっぱなしね…って、そんなに悠長に驚いてもいられないわね?
「よーし、いいか! まずはスカートを捲るんだ!」
「え、あ、は、はい…」
なんだかいきなりね…?
HIME、大丈夫かしら…、とっても不安よ?