第10章 日常4:彼のベッド
しまった…、と思った時にはもう遅かった。
櫻井くんは、身体をまるでロボットのようにしてベッドから抜け出ると、二人がけのソファにドカッと腰を落とした。
「え、えと…、櫻井…くん…?」
僕は途轍もない気まずさと、途轍もなく重い罪悪感を感じながら、ベッドの上から櫻井くんに声をかけた。
すると櫻井くんは、ギコーッと機械音が聞こえるくらい、カクカクとした動きで僕を振り返ると、
「あ、ああ、そう…だ…、朝飯は味噌汁が…良いかな…」
僕が訊いてもいないことを、苦笑のまま硬直した表情を変えることなく言った。
「えっと…、あの…」
「パ、パンでも…良い…けど…」
「う、うん…、分かっ…た…、用意出来たら呼ぶ…ね?」
僕は銅像にでもなってしまったかのような櫻井くんに、心底申し訳なさを感じながらも、ベッドを飛び出た勢いのまま、櫻井くんの部屋を飛び出した。
途中、目を回しながら螺旋階段を降り、ダイニング兼キッチンに入った僕は、冷蔵庫のドアを開けようとして、そのままズルズルとその場にへたり込んだ。
いくら寝起きで頭がいつも以上におバカになってたからって、櫻井くんにキス…しちゃうなんて…
それも、ほっぺとかおでことか、そんなじゃなくて、しっかり唇にしちゃうなんて…
僕…どうしたら良いの?
櫻井くん、絶対僕のこと“変態”って思ったよね?
実際さ、僕は“変態”だよ?
認めるよ?
櫻井くんは知らないかもしれないけど、僕は“女の子”に興味が持てなくて、“男の子”が好きで…
ついでに言うと、普段の僕は誰がどう見ても平凡な“男の子”だけど、本当は可愛い物とか大好きで…
結果“HIME”が生まれたわけで…
だから、“変態”だと思われても否定はしないけど、櫻井くんに嫌われるのだけは…どうしても嫌。
「はあ…、僕どうしたら良いの?」
僕はヒロ美とした櫻井くん家のキッチンで、一人項垂れた。