第9章 日常3:彼の部屋
勝手に…ではあるけど、僕が思い描いていた“櫻井くん像”が、ガラガラと音を立てて崩れ…
僕はちょっとした目眩を感じていた。
流石にお見舞いに来て倒れるわけにはいかないから、しっかり足を踏ん張って持ち堪えたけどね?
それでも僕のショックは大きくて…
「なんか…、ちょっと衝撃だったんだけど…」
つい心の声が漏れてしまう。
でも櫻井くんは、ケロッとした顔をしていて…
「ねぇ、本当にここが櫻井くんのお部屋なの? ひょっとして弟さんのお部屋とか…」
確か弟いるって言ってたし、きっとそうだよ。
熱のせいで自分のお部屋と弟のお部屋、間違えちゃったんだよね?
だって櫻井くんがこんなにだらしがない筈ないもん。
「ね、櫻井くんのお部屋はどこ?」
見た目には元気そうだけど、まだ熱もあるし…
病人をこんな劣悪な環境に寝かしておくわけにはいかない。
僕はベッドに横たわる櫻井くんに再び背中を向けると、
「乗って?」
ガクガクする腰に一喝を入れて、さっきよりも低く腰を屈めた。
「早く…」
この体勢…、意外と辛いんだから…
僕は俄に感じ始めた腰の痛みに耐えながら、その体勢をキープし続けた。
でも…
感じる筈の重みを一向に感じることはなく…
それどころか、僕の背後からは、クスクスと声を殺して笑う櫻井くんの声が聞こえて来て…
「ちょ、ちょっと…、笑い事じゃないんだけど…」
振り向き様に抗議すると、櫻井くんはお腹を抱え、枕をボフボフと叩きながら、大声で笑い出した。
「な、何なの? これでも僕真剣なんだけど…」
「いや、だってさ…、いくらなんでも自分家で迷子にはなんないでしょ(笑) 大野くんみたいな方向音痴ならともかく(笑)」
「うっ…」
そりゃさ、否定はしないよ?
でもちょっと酷くない?