第9章 日常3:彼の部屋
「ここ…」
廊下の突き当たりを前に、櫻井くんが不意に言った。
「ここ、俺の部屋」
「そ、そう…なの…?」
僕は漸く目的地に辿り着いたことと、これでやっと僕の身体を押し潰してしまいそうな重みから解放される…、そんな安心感からか、フーッと息を長く吐き出した。
「開けて良い?」
友達と言っても他人の家。
一応断りを入れてからドアノブに手をかけた。
そして、
「どうぞ?」
と櫻井くんの許しを得たところで、ドアノブを引いた。
僕はその時、こんな立派なお家だから、櫻井くんのお部屋もきっと凄くお洒落で、綺麗なお部屋なんだろうな…って、僕のボロアパートとは違うんだろうな、って…
背中にズッシリとのしかかる重みに耐えながら、ちょっとした期待に胸を膨らませていた。
ところが…だよ?
「ね、ねぇ…、本当に…? 冗談…だよね?」
ドアを開いた瞬間僕の視界に飛び込んで来たのは、お洒落でも綺麗でもなく…
床一面足の踏み場もないくらいに散らかった服と、スペースがあるにも関わらず、本棚の前に山高々と積まれた雑誌や本が、そこかしこにあって…
しかも、ガラステーブルや、立派過ぎるライティングデスクの上には、空になったペットボトルやら、使用済みのカップの類が所狭しと並んでいて…
僕は驚きのあまり、櫻井くんを落っことしそうになる。
「と、とりあえずベッドへ…」
僕は足で床の服を蹴散らしながら、やっとの思いでベッドまで辿り着くと、床と同様、脱ぎ散らかした服で布団が見えなくなったベッドに、そっと櫻井くんを下ろした。
ってゆーか…
僕の想像してた“櫻井くん像”とは、全然違うんですけど…
だって僕が想像してた櫻井くんは…