第9章 日常3:彼の部屋
「は〜、久々こんな笑わせて貰ったわ…」
一頻り大笑いした後、櫻井くんが目尻に溜まった涙を脱ぐいながら、溜息を吐き出すかのように息を吐き出した。
「あのさ、ここ間違いなく俺の部屋だから」
散々大笑いをされ、若干(…どころじゃないけど)不貞腐れ気味の僕に、櫻井くんが壁を見てみろと笑いを堪えきれない目で合図を寄越す。
内心“どうして僕が!”と思いつつも、僕は櫻井くんの視線を辿り、部屋の壁に目を向けた。
そこには、
「ゲッ…!」
思わず仰け反ってしまうレベルで、壁全体が“HIME”で埋め尽くされていて…
ここが間違いなく櫻井くんの部屋だと確認すると同時に、何とも言えない恥ずかしさが込み上げて来て…
「ア、アハハハハ…、す、凄い…ね…」
僕は引き攣った笑いを浮かべた。
櫻井くんがHIMEの大ファンであることは聞いてたけど…、まさかこれ程とは…
正直戸惑ってしまう。
だって、櫻井くんが好きな“HIME”は“僕”で…
でも櫻井くんは、僕が“HIME”ってことは知らないわけで…
別に騙してるわけじゃないけど、ちょっとだけ罪悪感を感じなくもない。
ただ、難しいことは分からないけど、契約上の問題とか(?)色々あって、僕が“HIME”であることを知られることは勿論、僕自身がHIMEの正体を明かすことは出来ない。
予想してなかったわけじゃないけど…
はあ…、やっぱり来るんじゃなかった。
僕はどうにもならない後悔に、顔を引き攣らせたまま、肩を落とした。
なのにさ、そんな僕の気持ちなんて全く知らない櫻井くんは、お布団をペロンと捲ると、
「特別だぜ?」と、得意げに笑って、ほぼほぼ等身大サイズの、HIMEの抱き枕を僕の目の前に差し出した。