第9章 日常3:彼の部屋
「は? いきなり何…」
僕が取った行動の意味が分からないのか、櫻井くんが戸惑いの声を上げる。
でも僕は聞く耳を持つことなく、
「いいから乗って?」
お尻を櫻井くんに突き出した格好のまま、肩越しに後ろを振り返った。
なのに櫻井くんときたら、
「い、いいよ…、一人で歩けるし…。それに、大野くん俺よりちっこいし…」
僕が気にしてることを平然と口にして、一向に譲る気配がない。
ホント、頑固だなぁ…
でも頑固さなら僕だって負けてない!
僕は“任せて!”とばかりに胸をグーで叩くと、櫻井くんに向かってウインクを一つした。
それには流石の櫻井くんも根負けしたのか…
「俺、けっこう重いし…、無理だったら降ろしてくれて良いから…」
そう言って、僕の背中に覆い被さって来た。
「うん…、大丈…夫…。これでも僕…、腰鍛えてるから…」
「そう…なの…? 全然そんな風には見えないけど…」
そりゃそうでしょ…
見た目には分かんないだろうし…
それに、セックスで鍛えてる…なんて、とても言えないしね(笑)
「見えなくてもそうなの!」
僕は自信たっぷりに言い放ち、屈めていた腰を伸ばそうと“よいしょ”と掛け声をかけた…が、
「あ…で…?」
おかしいなあ…
僕別にすっごい力持ちではないけど、それなりに力はあると思ってたんだけど…
全然持ち上がんない!
それでも僕は足を一歩、また一歩と踏み出すと、“おんぶ”とは名ばかりの…、引き摺るように廊下を進んだ。
「重い…だろ?」
廊下の途中で足を止めた僕に、櫻井くんが笑いを含んだ声で言うけど、
「ぜ、全然! 言ったでしょ? 僕、腰には自信あるって…。だから平気だよ…」
僕は額に汗を浮かべながら、強がりを言って見せた。