第9章 日常3:彼の部屋
立派過ぎる門を開き、十メートル近くははあるだろうか、規則的に並べられた敷石のアプローチを抜け、立派過ぎる玄関ドアを押し開く。
櫻井くんのメッセージにあったように、玄関にも鍵はかかっていない。
…ってゆーか、こんな“いかにもお金持ち”みたいな家なのに、ちょっと不用心過ぎない?
僕は無人の玄関に「お邪魔します」と声をかけると、僕の部屋くらいありそうな玄関に靴を脱いだ。
すると、テレビの中でしか見たことの無い光景に目を奪われる僕の頭上から、
「よ!」
っと声がして…
「あ、櫻井く…ん…?」
螺旋状に伸びた階段の上を見上げると、パジャマ姿の櫻井くんが僕を見下ろしていた。
そして僕に向かって片手をヒョイと上げると、僕に“来い”と言わんばかりに手招きをした。
…ってゆーか、櫻井くん寝てなくて平気なの?
僕は思いの外元気そうな櫻井くんの様子に、ほんのちょっとの安堵を感じながら、螺旋階段を上がった。
HIMEなら、絶対大喜びしそうな、真っ白で華奢な手摺をしっかり握りながら…
慣れない螺旋階段に軽く目を回しながら、櫻井くんのいる階まで上り切った僕は、挨拶もそこそこに、櫻井くんの額に自分の額をくっつけた。
「は? おまっ…、何…」
「しっ、じっとして?」
咄嗟に身を引こうとした櫻井くんを制して、僕は瞼をそっと伏せた。
ちょっと熱いけど、思った程は高くないかな…
ただ、油断は禁物だ。
僕は櫻井くんの腕を引くと、
「部屋、どこ?」
熱のせいか、若干赤みを帯びた顔を覗き込んだ。
「えっ…と、あっち…かな」
「分かった」
僕は櫻井くんが指差した方向に身体を向けると、
「乗って?」
少し腰を屈めて見せた。