第10章 楽園事件:1
「無事か?監視官!」
「い、今のは何!?」
動揺する霜月に見たところ怪我はなさそうだ。だが姿の見えない敵に対して恐怖で怯えている。対象は逆光でよく見えなかった。黒く大きな固まりで恐らく翼のようなものがあった。
あれがなのだとしたら、狡噛ならどうするだろうと考える。だが昔から付き合いがあるものの彼の思考を辿るのは宜野座はあまり得意ではなかった。こと事件に関しては。その辺は常守の方が上手い。今の現場指揮官は霜月だ。勝手な行動をして新人を困らせるわけにも行かない。このことは持ち帰って常守に報告しようと決める。
「わからんが、遠くに行ったらしい。さっさと終わらせるぞ。」
唐之杜からの分析結果もきている。
他のコンテナに比べて冷気を閉じ込めているものがいくつかあった。
それを一つずつ確認する。一つは水産加工品だった。無認可で加工、販売をしていたとしても廃棄区画ではよくあることだ。さらにもう一つは空。霜で覆われて何もない。恐らくここも水産加工品か何かを入れていたと見える。魚の生臭さが多少残っていた。
もう一つを開けたとき、やっと目当てのものにたどり着いた。そこには医療用のベッドが血まみれで置いてある。不自然だ。
霜月は常守に連絡をいれた。
鑑識用ロボットを放ち、現場検証が行われた。現場に残った血液と紛失した遺体の血液が一致。解体された後だった。
「監視か〜ん。」
霜月に唐之杜から連絡が入る。近辺の港にある船の運行情報についてだった。
「今日の十六時に一隻だけど申請が入ってる。」
「十六時!?もうニ十分前じゃない!」
「ブローカーならもう近くにいる可能性が高いから気をつけて。」
宜野座と霜月はコンテナを出るが周りも高くコンテナが積まれているため状況を把握しづらい。
ビルの五階分に相当する高さはある上に、通路はコンテナを壁にして迷路の用に張り巡らされている。
今度は常守から連絡が入った。
「霜月監視官。私達もそっちに向かいます。くれぐれも気をつけてください。相手は武装している可能性があります。」
「心配にはおよびませんよ先輩。」
通信を切り、ドミネーターを構えて宜野座に先行するよう顎で示した。それを何と思うことなく宜野座は当たり前のように進んでいく。積み重なるコンテナに沿って慎重に。