第10章 楽園事件:1
宜野座のさらに前を先行するドローンが赤外線センサーを感知する。ここを通ったら知らせが欲しい誰かがいるのは間違いない。宜野座は霜月に向かってコンテナの上を指した。そしてドローンを踏み台にして上にあがる。
階段のように積まれたコンテナの上にどんどん上がっていく。霜月はただ下から見上げているしかなかった。
三つほど登ると見渡しやすい。人が一人トランクケースを持って立っているのが見えた。探していた奴で間違いないだろう。だが引き渡すもう一人がいない。
「見えた。犯人は一人だ。遺体安置所の従業員で間違いない。」
「ブローカーがくるはずです。船は見えますか?」と常守。
「いや、コンテナの壁が高すぎて見えない。」
「では待機を。接触したところを押さえます。」
「了解。」
通信を切ってから霜月はさっさと執行すればいいのにと思った。先輩の指示を破れば報告書になんて書かれるか分からない。そう思って行動は起こさなかった。
船の運行申請の十分前。まだ片割れはこない。待ち合わせ場所から船着場までは距離がある。そろそろ合流しないと間に合わない。常守と六合塚の方が早かったぐらいだ。
六合塚は周辺のセンサーを落とすためにシステム侵入を試みた。処理には少しかかりそうだ。
「唐之杜さん、付近の様子はどうですか?」
「うーん?なーんにも、静かなもんよ。」
既に感づかれて中止にするのだろうか。だとしても一人は確実に逮捕か執行する。それは変わらない。
「唐之杜。」
「はいはーい。」
「本当に周辺は誰もいないのか?」
「いないわよ、待ち人一人とおまわりさん四人以外はね。」
「なら俺の視界に入ってるあいつはなんだ?」
それは宜野座の位置からでなければ確認できない。でなければ遠隔でドローンと衛生画像をタイムリーに見ている唐之杜か。だが確かに人の形をした、いや人だ間違いなく。犯人の近くに高層ビルのように積まれたコンテナの上に身を屈めて下の様子を伺っている。容姿は見えない。ただ白い。頭から爪先まで真っ白だ。
「宜野座さん、誰が見えるんですか?」
「遠くてわからん。だが動きが妙だ。」
「妙…?」
「あぁ、何というか俺達と同じように犯人を狙っているような…」
言いかけた瞬間のこと。コンテナの上から白が飛び降りた。