第10章 楽園事件:1
標本事件のように公衆の面前に見せつけたいタイプは死んだ人間より生きた人間で選ぶ。恐らくこの犯人はそのタイプではない。
「朱ちゃん、当たったわよ。」
移動中の車で唐之杜が連絡してきたのは追加情報についてだ。修復した映像から人物を検索した結果、勿論遺体安置所の従業員だったのだが、彼のIDで履歴を追うと定期的に遺体を持ち出した形跡があった。それがどれも身寄りのない人物ばかりだったという。もしやと思い現在安置されている死体のデータを調べるとちょうど持ち出した棺桶の隣は身寄りのいない老人のものだった。確認を取ると従業員側のミスで身元がテレコになっていた。
「従業員のミスが無ければバレることもなかっただろうな。」
「悪事はいつかバレるのよ。」
「そうだね、一刻も早く遺族のもとに返してあげないと。」
パトカーの後ろはドローンが数台列になって着いてきた。廃棄区画はオフラインが多い。中継器として、時に追跡にも役立つドローンを駆使することで人員不足を補うしかなかった。
最後に犯人のサイコパスが検出された倉庫街で車を止める。海が近く潮の香りがする。
犯人が臓器売買目的だとしたらブローカーに遺体を渡すなら船、もしくは小さくして手渡しと仮定する。小さくするにしても技術や機材、場所が必要となる。
「私たちは昔の地図を頼りに病院や死体を保管できそう場所を中心にあたってみましょう。霜月監視官は倉庫周辺をお願い。唐之杜さんは船の運行情報について集めてください。」
「はいは〜い。」
「通信は常に繋がるように、連絡をまめにしてください。」
「わかってますよ。」
「十分気をつけて。ドミネーターの所持を忘れずにね。」
四人はそれぞれのドミネーターを持ち捜索にあたった。
霜月は口煩い部下と一緒なことが不満で仕方なかった。彼も監視官だったと何度言われようとも現執行官なら潜在犯だ。潜在犯の言うことなんて信用できない。
「行くぞ霜月監視官。」
「指示するのは私です宜野座執行官。行きますよ!」
宜野座は呆れて鼻で笑いながらも新人の面倒を見るのは役目だと思い彼女に続いた。ドローンに先行させながら目視で確認するのはなんとも地味で作業のようだ。
倉庫は殆ど鍵がかかっていてそれこそ爆破でもしなければ入ることはできない。