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BERKUT【PSYCHO-PASS】

第9章 File:9


夕方の朱い太陽は街全体を橙に染め上げていた。
狡噛の住む集合住宅も光部分は鮮やかなオレンジ色に塗られ、逆に影の所は真っ黒に染まっている。執行官たちを車に置いて一人部屋に向かった。ちょっと様子を見るだけだ。五分か、かかって十分程度なら待たせても大丈夫だろう。昏田には忘れ物だと言って誤魔化したが何かもって戻るほうが良いのだろうか。そんなことを考えながらドアのロックを外す。が、違和感だ。ホームセクレタリーが起動していない。仕方なく個人端末から操作して生体認証でロックを解除した。部屋はホログラムが解かれていた。それは別にいいとして、やけに風が通り抜けている気がする。窓でも開いているのだろうか。それを想像した途端になぜか不安が大きくなった。靴も脱がずに短い廊下を走り抜けてリビングに入ると狡噛は部屋の有様に絶句する。
横倒しになったソファとローテーブル。床に転がるマグカップは持ち手が折れている。カーテンは外からの風に大きく靡いていた。風の出入り口は正しく開かれた窓ではなく強い力で割られて枠だけになったところから入っていた。破片が部屋に飛び散っている。
不安が抱えられないほど大きくなる。寝室も確認した。脱衣所もバスルームも、トイレも。だがは居ない。
不安のあまり手足が震えた。何故なら部屋はただ荒れているだけではない。そこら中に羽根が散らばっているからだ。
小さな羽根も大きな羽根もいたるところにある。さらに床は尖ったもので引きずったよう跡がたくさん残り、それはある程度規則性を持って二〜三本並んだ傷跡だった。
ホームセクレタリーのログはなぜか削除されている。一日分がごっそり失くなっていた。一体彼女はどこに消えたのだろう。

「…。」

呼んではみるが情けないほどに力のない声だった。
拐われてしまったのか、それとも自ら…?
放心している場合でもない。これは事件だ。狡噛は端末で和久に連絡し、それから真流に説明し、今日の朝からの自宅周辺状況を全て洗ってもらった。
だが、不自然なほど何もなかった。もしもこの部屋を彼女が出たにしても、他の人間が入ったにしても形跡は多少残るのに全くない。街頭スキャナにも監視カメラにも映らないで消える方法があるか。悲しいことに一つ思い当たる。
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