第9章 File:9
もちろん弄んでなどいないし、彼女が先を望むならそれに答えるべきだとも思う。だがはあまり望まない。自分で決めたりもしない。正直この関係に名前をつけることも出来かねる。
「アイツの面倒は最後まで責任もって見る。あとはなるようになるさ。」
この気楽さが宜野座は信じられないという。ただの気楽でいられたら幸せだ。そんな簡単なものでも無い。狡噛とは言わば薄い一枚のガラスで繋がっている。それはお互いよく見えはするものの、力の加減一つでヒビが入って見えなくなる。やがて砕け散って二度と元には戻らない。それほど不安定で脆い。つまりは今の二人ではなるようにしかならない。これをどうやってより強固なものにしていくか。それは彼の課題でもある。
「友人として応援はしたいが、気は進まないな。」
「ギノは気にし過ぎだな。」
カレーをやっと一口頬張ると、これまたタイミングを見計らったように和久から連絡が入った。商業施設内での規定超過サイコパスの検出。直ちに出動要請が出る。急いでカレーを掻きこんで紙お絞りで口元を拭くとお盆を片付けて執務室に戻った。狡噛は昏田と征陸を連れてで現場へと向かった。
日が暮れる前に目当ての人物を見つけ犯罪係数が上がるより早くセラピーを受けさせることができた。
広い施設内をコミッサちゃん連れで練り歩くのもなかなか骨の折れる仕事だ。このあとは街を巡回しながら公安局に一旦戻る。その前にに連絡を入れよう。このままいけば帰りはそれほど遅くならないかもしれない。
だが鳴らせどやはり応答しない。また羽根を毟ることに集中しているのかもしれないが、それはそれで不安だ。
「とっつぁん、昏田。悪いが途中で家に寄ってもいいか?」
「それは構わんが…執行官を待機させて監視官が離れるってのもあまり良くは思われないと思うぞ。」
「とっつぁん、脱走願望でもあったのか?」
「いいや、そんなものは無いが…」
「だろう?昏田もそうだ。俺は信じてるよ。三係の猟犬たちは馬鹿な真似はしないってことを。」
狡噛の真っ直ぐな瞳に昏田は呆れていた。彼には狡噛がまだエリートのぼんぼんにしか見えていないところがある。その甘さはいつか仇となることを知らしめたいが、まだもう少し時間が必要そうだ。