第2章 File:2
「頼むから何か食ってくれないか。」
朝からやや苛立ちを見せる狡噛は相変わらず何も口につけないを叱っていた。
結局昨晩も何も食べず、彼女は泣き疲れてそのまま眠ってしまった。朝は朝でまた黙っているが挨拶程度はできるようになっていた。
だが何も飲まず食わずで三日目。そろそろ人の限界だ。見るからに憔悴もしている。
「、ここに座れ!早く食え!」
就業時間も迫っていた。急いで済ませたいところだがはまたソファの後ろから出てこない。
しびれを切らして狡噛はブリックパックを片手にソファの後ろに行き、の首根っこを引っ掴んでストローを口に突っ込んだ。
驚いたは暴れ回ったが、狡噛に力づくでねじ伏せられていた。
「さっさと飲め…!」
物凄い剣幕でストローを口に突っ込んでくる男にも次第に抵抗しなくなった。仕方なく一口吸った。
「もっとだ。」
もう一口吸う。
狡噛の表情はゆるりと穏やかなものに変わった。
そのままブリックパックをに預けると、首根っこを掴んだままの手を離して着ていたスーツの皺を手で払って伸ばした。
はそれをストローを加えたまま眺めていた。
「俺がやらなくても飯ぐらい一人で食え。」
もう行くと言って狡噛は玄関へ向かっていった。
その背を目で追う。やがてドアの閉まる音が聞こえた。
はゆっくり立ち上がってフラフラと玄関へ続く廊下へ行く。
誰もいなかった。仕事へ出たことが分かるとはトイレに走り、便座の蓋を開けるなり飲まされたものを全て吐き出した。
「うっ………ええっ……。」
指を口の奥に突っ込みさらに吐き出そうとするも、もともと体に殆ど入っていないため唾液か胃液のようなものが出てくるだけだった。
モズがふわりと表れての様子を観察する。
《消化器系の異常が見られます。医師の診察を勧めます。》
言うなり近くの内科や消化器科を検索し、何件か候補を上げてきた。は口元を袖で拭いてトイレの水を流しリビングに戻った。
《美味しくなかったですか?》
モズはがっかりしたように言うので無視するのも可哀相と思うようになった。
「ううん、味がどうとかじゃないから…」