第1章 File:1
プレートには栄養バランスが考えられた品目が並んでいた。それを取り出してリビングのテーブルに置く。
「ほら、できたぞ。」
だがはまた黙る。二人の間はソファがあり互いに姿は確認できない。
動く音もしないので狡噛はモズに様子を見るよう顎で指示した。
モズはやや面倒くさそうに飛んでいきソファの後ろに行くと、すぐに上昇して翼を腕のように広げた。どうやらまただんまりを決め込んでいるらしい。
「おい、冷めるだろう。意地張ってないで出てきたらどうだ?」
「すみません…いりません。」
小さな声がソファの後ろから聞こえた。かなり弱ったようにも聞こえる。
狡噛はまたの様子を確認しにソファの後ろに回った。
「餓死でもする気か?」
「そうです。」
冗談で言ったつもりが肯定で返ってきたことに少し混乱する。つまり、死にたくてそうしているのだろうか。そもそも死にたいやつがこんなにクリアな色相を保っていられるだろうか。
「は何で死にたいと思うんだ?」
はまた黙った。膝を抱える手が己の腕をぎゅっと掴んでいる。その手は震えていた。
彼女が一人の時に泣いていたのを思い出した。彼女は一体何を抱えているのだろう。狡噛は慰めからかの背に手を置いた。一瞬ビクと大きく震え、小刻みに震え、そのまま黙って動かずにいると震えが治まっていった。
その手の温かさに彼女は何を思っただろうか。ログで見た映像と同じように泣き出してしまった。
狡噛はますます戸惑いその場から動けなかった。
頭を撫でればいいだろうか、だがまた怯えるかもしれない。何か声をかけようにも言葉が出てこない。行き場を失った手で背中を撫でた。しばらくそうしていた。
暗闇の中、ディスプレイからの青い光だけが周辺を照らす。
どの程度の規模の部屋かはその明かりだけでは判断できない。パソコンに繋がったディスプレイはいくつもあり、一つは曲線が動き色相が表示されていて、別なものは地図に赤い点が点滅していた。その場所を拡大するとそれはとある監視官の自宅がある建物だ。
さらに別のディスプレイにはいくつものファイルがナンバー順に整理されいて指でスクロールし一つをタップした。
「鳥は、籠から逃げられないんだよ…」
ファイルにはの写真が載っていた。