第9章 File:9
「で、どうだった?」
「お前に関係ないだろ…」
「いいじゃねえか感想聞くぐらい教えろよけち。」
なぜそこまで言われなきゃならないのか。だいたい人に話せるような内容ではない。だがこの幸福感を人に漏らしたい気持ちもある。でも佐々山は駄目だ絶対。言えば後悔するに違いない。
「どこまでいったの?A?B?」
肩に腕をかけて耳元でこそこそと聞いてくる。佐々山にまとわりつくタバコのニオイが移りそうだと思った。
「おいおいもしかして一気にCまでしたのかよ!やるじゃねぇかぴよ噛のくせに!」
「佐々山、離せ。とっつぁんにコーヒー持って行くんだよ。」
何も自らは言っていないのになぜ全て見ていたかのように奴は話すのだろうか。その洞察力はある意味感心する。
「なんだよ、もう少し聞かせろって。あんなニヤニヤしちまうほど良かったんだろ?」
「ん…まぁ……。」
うっかり返事をしてからまずいことをしたと気がついた。佐々山を見れば驚きで目が丸く開かれている。
「マジで…?冗談じゃなくマジで?」
もういい。ここまできたらどの道嘘だろうと言いふらされるに決まってる。
「いいだろ、お互いの同意の上なんだ…」
そういえば同意なんてあっただろうか。
いちいち了承を得るようなものでもない事は分かっているが、かと言って了承かそれに近しいものをどこで感じたのだろう。
「ありゃまだ未成年だろ?お味はどうだった?」
えげつない言い方は品のかけらもない。それでも彼女ときたらそりゃあもう…。
「最高だった…」
思い出すだけで顔が緩む。あの抱いた感触がまだ手には残っている。
「へぇーそんなにいいのか!いいなぁ、俺も犯してみたい。」
「バカを言うな。俺は犯したんじゃない!愛したんだ!」
「そういう恥ずかしいこと真顔で言うなよ、こっちが恥ずかしいだろ!」
確かに何をムキになって佐々山に熱弁しているのだろうか。
急に恥ずかしさが追いついてくる。
「おい佐々山。」
「さっそくギノせんせーに教えてやろー。狡噛が先越したって。」
言いながらさっさと軽快に走っていく佐々山をカップ一杯のコーヒーを両手に持ちながら追いかける事はできなかった。
最悪だ、もう終わった。佐々山のせいで話は二重三重に大きく飛躍して尾ひれまでついて戻ってくるのだろう。思わず溜息がこぼれた。