第8章 File:8
もう我慢ならない。
の頬に手を乗せると噛み付くようにキスした。突然塞いだ口からは息が漏れるが今度は隙間を埋めるように舌を口内に押し込み、全体に這わせる。抵抗されるか、叩かれるか最悪舌を噛まれることも想像したが全て起こらなかった。それどころか全て受け入れるかのように、体の力が徐々に抜けていくのが分かる。口の中で互いの唾液が混ざりだし、それが麻酔のように脳内を麻痺させていった。こんな事、してはいけないと思いながらも止められない。どんどん奥に進みたくなってしまう。どれだけ角度を変えて舌を動かそうが届くところには限りがある。一通り堪能して口を離すとは大きく息継ぎした。息を切らす彼女と同じように呼吸する自分がいる。上がっているのは自分も同じだったと気が付く。
「…」
お互いにの吐息が顔にふわりとかかるほど近いのにそれが不満でもあった。
「もっとこっちに来な。」
「これ以上行けないですよ。」
確かに既に脚や腹も密着している。これ以上どうしろというのか、と彼女は思っているだろう。
「じゃあ俺がそっちに入る。」
「どうするんですか?」
「全部俺に任せろ。いいか?」
は無言で小さく何度も頷いていた。暗闇に慣れてきた目は彼女のいつもの無表情を映す。一体どう思っているのか全く分からない。いいのか悪いのか。頷くから良いとも限らない。我慢の可能性もある。だが今はそれをどうでもいいとさえ思う。狡噛はの上に体を乗せて優しく抱きしめた。細くて骨と皮だけと思っていたがやはりそれなりに柔らかい。逆上せてしまいそうだ。体の中心がやや質量を増してピクリと動いた。工程を全て飛ばして好きなようにしたい気持ちを隠し、瞼にそっと唇を落した。手は体の線をなぞるように服の上から滑らせる。膨らみは避けて、体の縁から腹へ、双房の中心を通って肩へと這わせる。肩から鎖骨へ戻ると両手で顔を包み、深く口づけた。何度も舌を絡ませながら、両手の人差し指が耳の縁をなぞり時々穴にいれると肩を大きくびくつかせていた。溢れる吐息と唾液による水音がさらに脳内を痺れさせる。息継ぎも兼ねて唇を離し、彼女の表情を確認する。目はとろんと半分しか開いていないが熱を感じないというかまるで憐れんでいるようにも見えた。情欲に取り憑かれているのは自分だけかと思うと悔しい。