第8章 File:8
は狡噛の真剣な眼差しを捉えた。かと思うとすぐに伏せる。長い睫毛が心まで隠しているようだった。
「狡噛さんはちょっと優しすぎますね。」
「そうか?困っている奴は助けるのが普通だろう。」
「私、困ってるんですかね。」
違うのか。恐怖を感じるのと困るのは確かに違うものだが、恐怖も受け入れているのか。それとも足掻いても仕方ないと諦めているのか。やはり分からない。目の前でこうして話していてもは何を思い何をしたいのか。もしかしたら本人もそこまで考えていないのかもしれないが。
「みたいなやつをなんて言うか知ってるか?」
「なんですか?」
「不思議ちゃんだ。」
「…なにそれ。」
「何考えてるか分からない上に奇想天外な言動のやつのことだ。」
「狡噛さん、私のこと嫌いなの?」
「誰もそんなこと言ってないだろ。」
「私、言葉はあんまり知らないですけど、今バカにされたのは分かります。」
「なんだ、バレてたか。」
「なんなんですかもう。」
今度は目に見えて機嫌を損ねているのが面白い。からかい甲斐があった。
「少し紛れたか?」
「あ…」
どうやら上手くいったようだ。今度は目を見開いて驚いている彼女の顔がその答えだと思う。
「すごいですね…」
「これでも成績トップで公安局に入ったんだぜ。」
「そのすごさは私にはよく分からないです。でも、ありがとうございます。」
言葉を知らずとも気持ちはきちんと伝わるらしい。ようやく扱い方が見えてきた気がした。の顔は穏やかだ。ほんの少しだけ口端を上げて、やわらかく微笑むところを見ると妙に安心してしまう。再び端末に目を向ける彼女はまた何かを探しているようだった。それを隣で眺めるのもすぐに飽きて指で髪を掬ったり首を擽ったりしてみるが全く反応してもらえない。横髪をかき分けて耳の縁をなぞると眉がややピクリと動いたように見えた。もっと反応するかと耳の穴に人差し指を入れたら流石に避けられた。
耳を抑えて怒ってるところも可愛らしいと思うのは不謹慎か。
「何してるんですか!?」
「耳触ってた。」
「寒気がするので止めてください。」
「寒気…」
気持ちの悪い物を見るような目で見られたのは流石にショックを受けた。暇だからちょっかいをかけたかっただけなのだが。