第7章 File:7
ホログラムではなく真新しい服に身を包んだ彼女を思い返した。
「何より、お前が楽しそうにしてたのが俺は嬉しかった。」
「私、ですか?」
「あぁ、良く似合ってたしな。」
「ありがとうございます。ご飯も美味しかったですね。」
「そうだな。」
「狡噛さん?」
「ん?」
「そこにいますか?」
「ああ、どうした?」
「ドアが開かないのでどいてください。」
急に拍子抜けてしまうもドアから離れればぶつからないようにかゆっくりと開いて、まだ髪の濡れたが出てきた。羽根はどうやらゴミ箱に全て捨てたらしい。
「髪乾かしてから出てこい。」
そういうと彼女は不満げにまた脱衣所の鏡の前に戻った。肩より少し長い髪は乾かすのも根気がいるのかもしれない。
怠そうにドライヤーを取る手がそれを物語っている。
「貸しな。」
同じく気怠そうに手を出す狡噛に今取ったばかりのドライヤーを渡すと、スイッチを入れて熱風が濡れた髪に当てられる。大きな手が毛先の水滴を弾き飛ばすように動かされた。時々顔面に跳ね返ってくる纏まった毛先には目をつむった。
「前向いて。」
黙って言われたとおりに動く。後ろ髪を狡噛に任せていると眠気が襲ってきたのか瞼が少しずつ下がっていくのが鏡に映った。そのリラックスした表情が寝ている梟のようで笑いがこみあげてくる。それを我慢していると堪える表情も鏡に映っていて今度は彼女がそれを不思議に見ていた。
「どうしたんですか?」
「いや、お前の眠そうな顔が面白くて…」
「狡噛さんの作り笑いとどっちが滑稽ですかね?」
「滑稽で悪かったな。いちいち掘り返すな。」
ついでに彼女の後頭部を軽く叩いた。だが特に気にする様子でもない。しばらく乾くまでは沈黙が続いた。なかなかに時間のかかる作業だ。十分程でようやく乾くとコームをいれる。人の髪を手入れするなんて初めてのことだった。
「狡噛さんて兄弟いるんですか?」
「いや、何で?」
「面倒見がいいのでもしかしてと思って…」
「別に面倒見が良い方ではないと思うけどな。なんでかお前には世話をやきたくなる。」
「優しいんですね…」
「そう有りたいとは思ってるかな。」
几帳面に髪をとかし終えると艶が一層増していた。
「よし、終わったぞ。」
「ありがとうございます。」