第7章 File:7
が風呂からあがったら提案してみよう。元の管轄に戻したり民間に依頼するよりお互いずっといいと思えることを期待する。だが数十分経っても彼女はバスルームから出てこない。水音ももう聞こえない。湯船で寝てしまってはいないだろうか。
「、上がったか?」
バスルームの戸を叩いて呼びかける。
「あ、上がってます…もう少し、待っててください。」
返事があったがなぜかスッキリとしない。声がやや震えているようにも聞こえた。開けるかどうするか少し悩んだが思い切ってドアを開けると、はこちらに背を向けてバスマットの上に裸のまま座り込んでいた。それよりも目に飛び込んで来たのは背中にある無数の赤い穴だ。床には大小様々の羽根が散っている。大方毟り取った後だろう。
「待っててって、開けないでって意味だったんですけど…」
「俺が黙って開けなかったらひたすらそうやってたんだろ?」
血が滲む背は肌の白さを際立たせているようにも見える。まだ手の届かなかったところには小さな羽根が残っているが今回は随分とびっしり生えていた。その背に手を当てて狡噛は黙っていた。羽毛のふわふわとした感触と素肌の温かさとの両方が掌から伝わってくる。この赤を見るだけで痛みさえも伝わってくる気がしたが、その痕が目に見えて小さくなっていく。最初は目の錯覚かと思った。だが確かに赤は小さくなって肌の白さに覆い尽くされた。
「どうなってる…?」
は手探りで着替えを取って前の方は彼に見えないように服を着た。
「最近、傷の治りが早くなったんです。」
「早いのレベルが違うぞ。どんな仕掛でそんなことが…」
は顔だけ背後の男に向けると出ていくように手振りで示した。そもそも着替えも終わっていないところに来てしまった恥ずかしさが遅れてやってくる。狡噛は目を伏せながら脱衣所を出た。
「今度のはなんで生えてきたと思う?」
背を預けたドア越しに聞く。少し間をおいて彼女は答えた。
「わかりません。」
またか、と呆れてまた溜息が出た。それが聞こえてしまっていたのかは続ける。
「今日のことを、思い出してました。皆さんに連れ出してもらって、楽しかったのを。」
「ああ、楽しかったな。」
「狡噛さんも?」
「俺も楽しかったよ。」