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BERKUT【PSYCHO-PASS】

第7章 File:7


バスルームの方から微かに聞こえる水の音に何故か落ち着かなくなる。おかしなことを考える前に床で腕立て伏せを始めた。その回数を数えて紛らわせる作戦だが、合間合間に今日初めて見た彼女の笑顔が蘇ってくる。確かに佐々山が言うとおりちょっと可愛いと思った。

「ちょっとだ、ちょっとだけだ!あの、殆ど、無愛、想で、出来てる、やつを…」

《ご用ですか?》

「独り言だ!放って、おいてくれ。」

動作と共に途切れながらも発する言葉に反応してくるモズが煩わしい。大きな独り言だと余計なことまで言ってくる。

《孤独を感じるとストレスケアのために独り言が増えることがある、八件ヒットしました。》

「検索するな。ああ!」

五十あたりまで数えると先が分からなくなり中断して胡座をかいた。

《狡噛慎也さんの現在の色相はゼニスブルー。朝より少し濁ってますね。何か悩み事ですか?》

「悩み、か…」

もはや何に悩んでいたのか分からないほど頭の中が散らかっている。こんなにかき乱される理由はなんだ。
好きなのか?いや、それとは何か違う。何故だが守ってやらなければいけないと思わせる強迫観念にも似たものがある。

「そうだ…俺がやらなくて他に誰がアイツを守る?」

《セキュリティ強化なら…》

「モズ、もういい。用があれば呼ぶ。」

《了解しましたー。》

煙となって消えるモズにやっと静かになったとホッとしてしまう。
再び今後について考えよう。彼女をこの社会で生活させるには戸籍と安定した精神で体の変化をコントロールすることが必要だ。前者は出生証明が見つかれば簡単だ。病院を虱潰しに探せば必ず見つけられる。安定した精神は兎に角不安を排除すること。彼女の場合、あの無感情さは返って都合が良い。もしかすると本人も分かっていて感情をなるべく作らないようにしているのかもしれない。今回の猫で驚くような外的要因には慣れが必要かもしれないがそれは時間で解決できそうだ。休みの日に一緒に廃棄区画を回ればなんとかなるか。寝泊まりだって本人が嫌がらなければここに居たって構わない。ベッドはもう一台必要だな。無理な事情聴取をしなければ暴れることもないだろうし、そもそも仕事の時はほとんど家には帰れないからストレスになることもないはずだ。外に出すほうがむしろ心配になる。自分で面倒を見ようと思えば自然と不安な気持ちも減った。
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