第7章 File:7
いい加減手を離そうかと力を緩めた途端に細い人差し指が絡みついてきた。たったそれだけの事に胸の奥やら顔が熱くなる。今度は指の先を絡めるように手を置いてみると、白く華奢な指がやんわりと握り返してきた。
恐る恐る彼女の顔を見ると変わらず窓の外を眺めている。
年下に弄ばれているようで些か納得はいかない。少しは攻めの一手をこちらから繰り出すべきかと自らを奮い立たせ、思い切って繋いだ方の手をぐっと引き寄せる。体勢を崩したはそのまま狡噛の懐に収まった。存外大人しく動かない彼女の肩を可能な限り抱き寄せる。外の雨音が大きくなってきた。ワイパーも作動して規則正しく雨をよけていく。とっくに信号も変わった。後続車がいないのをいい事にそのままでいると彼女は顔を上げようとしていたのでまたすり抜けられないように肩に置いていた手で後頭部を抑えた。何をやってるいるのだろう、自分でも分からない。後ろからやってきた車のライトが車内を照らすと仕方なく体を離して再び発進させる。
自宅の駐車場に着く頃に雨は一層強くなっていた。確か後ろに傘があったはず。
「待ってろ。傘をそっちに持っていくから。」
は少しドアを開けて雨の様子を見てもう一度閉めた。
「大丈夫ですよこれぐらい。玄関すぐそこですし。」
「そうか、なら走るぞ。」
二人は急いで車を出て入口まで走った。の服はホログラムが消えて最初に買った時の物に戻っていた。エレベーターで上がり部屋に着くとモズがふわりと現れる。
《おかえりなさいさん。遅かったですね。旅行ですか?》
「え?」
「数日いないから旅行だと思ったんだろ。」
「あぁ…」
狡噛は部屋の明かりをつけて脱衣所に直行するとタオルを二枚持って戻ってきた。一枚はに投げた。
「取り敢えず拭いておけ。今風呂を入れるから。」
「…ありがとうございます。」
然程も濡れなかったが取り敢えず頭と濡れた服を拭いた。
洗面所からは勢いのあるうがいの音が聞こえる。それが止むと戻ってきた家主は座る暇もなくネクタイを解いて着替え始めた。
「手洗ってうがいしろよ。」
「は、はい…」
言われるがままには洗面所に入っていった。
その間に狡噛は部屋着に着替え、彼女がいた頃に着ていたものも用意した。