第1章 File:1
和久はこっそり狡噛の端末に映るそれを見ていた。
何故か良くないものを見られた気になり体を離す。
「車で送っているとき、踏み込んだ質問をしてしまったんです。彼女の精神状態を考えると、もう少し待つべきでした。」
狡噛は端末のログを閉じた。色相判断からも問題ないとでたから答えられる余裕はあるはずと思っていたが、ことはそんなに簡単ではなかったと今やっと分かった。
色相が濁りにくい人は存在する。彼女もその部類に入るのだろう。だからこそ何を考えているのか分からない。隣の男のように。
「狡噛君は待てが苦手ですからね。」
「それは…」
狡噛が気を落としているとドローンが飲み物を運んできた。
通路側にいた花表がそれを分配する。
和久は礼を言うとストローから茶を一口含む。烏龍茶かと思ったが違うものだった。
「狡噛君にとって今回彼女を引き取ったのは良かったかもしれませんね。」
その発言に皆が和久に注目する。
狡噛にもよく分からなかった。今まさに和久の方が適任だったと再認識したばかりだというのに。
「どうしてそう思いますか?俺の言葉には反応もしないんですよ。」
「でも、狡噛くんのところに行くと決めたのは彼女でしょう?」
狡噛は今日の事を振り返る。確かに和久の問いかけに頷いたのは彼女だ。
「確かに、そうですが…」
「いずれ彼女から話してくれる時が来ます。それを待ちましょう。」
「そうですよ狡噛さん、女の子はとーーってもオブラートなんですから!時間が必要なんです!」
「?」
「………デリケートね。」
「そうそう!」
天利の脳天気さに笑いながらも狡噛はやはり待ちきれなかった。捜査に必要な情報は彼女しか持っていない。
彼女の話しを聞かずに始めることもできない。それが彼の正義感をもやもやさせる。
「ちょっと連絡してきます。」
と、狡噛は席を立った。
和久はやれやれとその背を見送り、タブレットのメニューを見た。
「どれを頼みましたか?」
「えーっと、これと、これと…」
仲間の声がだんだん離れていく。狡噛は入口付近で自宅に電話をかけた。
だが長く呼び出しても応答がない。予想はしていたが、仕方なく音声メッセージを残した。
「、俺だ狡噛だ。飯はくったか?ちゃんと何か食べろよ。それから寝る前はちゃんと歯を磨け。」