第1章 File:1
モズが熱いコーヒーを淹れ終るとカップを持って一口含んだ。には冷蔵庫に常備しているミネラルウォーターを投げて渡した。
は声に応じる素振りはないものの聞いてはいるようでボトルを受け止めた。
せめて何か一口でも口に入れてくれれば安心するのだが、彼女はボトルを持つだけで窓の外を見てばかりだった。
そろそろ戻らなければ。
「俺は仕事に戻る。部屋は好きに使って構わない。何かあれば連絡しろ。やり方はさっき説明した通りだ。分からなくなったらモズに聞けば教えてくれる。」
はそれでもまだ外を見るだけだった。
狡噛はまた溜息をついて、家を出た。
ホームセクレタリーが得た情報はある程度まで記憶され、狡噛の端末に転送できるように設定した。
遠回しに監視するようだがの情報を遠隔で得るために仕方がない。
戻る車内の中で、和久から通信が入る。
エリアストレス上昇警報だった。狡噛はそのまま現場に向かうことになり、そこで和久たちと合流することになった。
一仕事終えて戻る途中のこと。午後のシフトだった天利と花表が外食したいと言うので個室の取れる居酒屋で食事をとることになった。
二人ともホログラムで私服に着替えており用意周到である。
監視官の同伴が無ければ執行官は外に出ることもできない。
和久も特別と言って赦した。
店について席に案内されると天利はすぐにタブレットを取りメニューをみた。
「和久さん何飲みますー?」
「お茶にするよ。まだ仕事も残ってるしね。」
「えー。狡噛さんは?」
「俺も和久さんと同じのを。」
「えー。」
「ゲーコゲーコ。」
花表の意味不明な擬音に無言になりながらも、天利はマイペースに注文をとっていった。
「お肉とーサラダとー。」
「焼き鳥ある?」
「あるある、鳥以外もあるよ?」
二人の女子を温かい目で見守る和久を横目に狡噛は端末にメッセージがないか確認した。
だが何もなかった。
何も無ければそれでいいと思いホームセクレタリーのログを確認すると、一時的に色相が濁った時間があった。
今から2時間ほど前で、どうやら今は落ち着いたようだがその時の様子の映像が残っている。
ファイルを開くと、ソファの上で膝を抱えてすすり泣く少女が映っていた。
「ずっと、我慢していたんでしょうね。」