第6章 File:6
目的の階に着くとその階全てがレストランになっていた。
薄暗い照明と各テーブルに設置された蝋燭が品のある雰囲気を演出している。
BGMにはピアノクラシックが流れ、客は多いが静かだ。よくこんなところが予約できたなと花表と天利には更に感心する。連れの方も初めての雰囲気に圧倒され、大きく見開いた目が店内を何度も見回していた。
入口で待っているとウエイターが声をかけてきて、名前を伝えるとすぐに席に案内された。
窓際で街を一望できる席だった。これも偶然でないのだとしたら本当にすごい。テーブルは真っ白なクロスに食器と銀のカトラリーが並ぶ。はウエイターに椅子を引かれて戸惑いながら座った。
ウエイターは二人が座ったのを見届けてから居なくなったかと思うとすぐに戻ってきて温かい御絞りを渡してまた居なくなる。
「どうも落ち着かないな…」
狡噛は手をゴシゴシと拭きながら落ち着きの無さを表現していた。はさらりと吹き終えてすぐその手を膝に置いて肩を窄めた。
いつもなら目線を伏せるだけだが今日は並べられたカトラリーを眺めて瞳が忙しく動いている。
「…これ、どれを使うんですか?」
「大抵は外側から順に使えば大丈夫だ。」
テーブルの中央に置かれたメニューをとって眺めていると再び現れたウエイターがシャンパングラスに細かい気泡の立つ金色の液体を注いだ。興味深く見つめる大きな瞳がグラス越しに見えた。
ウエイターがグラスをに差し出すと「彼女はお酒はちょっと…」とすかさず狡噛のストップがかかりグラスは彼の前に置かれた。
「ノンアルコールをお持ちしましょう。お好きなものはありますか?」
そう言われても飲んだことのないものを何と答えればいいか分からず、はお任せでと一言告げるとウエイターは一礼してバーカウンターへと去っていった。
「なんで私は駄目なんですか?」
「未成年だからに決まってるだろ。」
はつまらなそうに唇を尖らせて、間もなくウエイターが持ってきたノンアルコールのグラスを手にした。
「乾杯。」
グラスを持ち上げている狡噛のその意味が分からずに同じようにグラスを持った。彼の手の中のシャンパンの輝きを羨ましげに見つめている。それを彼女のグラスに軽く当てた。