第6章 File:6
「あー、いいですね。楽しんできてください。何も無ければそのまま上がっていいですよ?」
あっけらかんと言い切る上司に言葉もなかった。
許可が降りた本人よりもこれから帰らなければならない猟犬の方が喜んでいる。彼女らのミッションもこれで完遂なのだろう。
「さっすが和久さん!心が広い!」
「二人は帰ってこないとだめですからね。」
「はーい。」
「さん、そこにいる?」
狡噛は和久からが見えるようにデバイスを傾けた。
執行官二人の作戦で変身を遂げた彼女を見て和久ですら感嘆の声を上げる。
「どうですか?二人の見立の程は。」
「自分じゃないみたいでまだ驚いてます。」
「とても素敵ですよ。良かったですね。」
「あ、ありがとうございます…」
恥ずかしそうに俯いたところで狡噛はデバイスの向きを戻した。今から二人を連れて一旦帰ることを告げ、事務的な報告を交わし通信を切った。
帰りの車内と言えば助手席は無人になり、後部座席に華やかな女子が三人仲良く並んでいた。花表と天利は洋服のホログラムの切り替えについてに教えている。組み合わせを様々考えて、これもいいとか、こっちにはこれも合うとか楽しげに話していた。バックミラー越しに時々映るの小さな笑顔をこっそり見ているだけで狡噛は満足だった。
公安局で執行官二人を下ろすと、再び車を走らせる。レストランの予約時間は迫っていた。狡噛は直接ハンドルを握り制限ギリギリのスピードで走行した。
ホテルの地下駐車場に車を停めて降りるとは端末を操作して服装を変更した。清楚なドレスだった。
「入る前にこっちに変えたほうがいいって翼さんが…」
そこまで念入りに仕込まれているとは感心する。
膝が見え隠れする丈のドレスはフレアに広がり彼女が歩くたびにたっぷりとした布が波を描いた。踵の少し高い靴が細く白い脚をより強調しそれをドレスの裾が飾り立てるようにも見える。
いつになく色気の漂う姿に落ち着かず狡噛は下唇を噛んで誤魔化した。
二人は奇妙な距離を保ちながら駐車場からエレベーターへ入り、高層階へ移動する。
途中で停止した階から次々に人が乗り込んできた。他の男性客が一瞬に視線を向けたような気がして、なんとなく角にを誘導してさらに背中で隠した。