第6章 File:6
助手席に座る彼女はやはり顔を合わせない。照れ隠しなのだろうか。それ以降黙り続けるその表情を見ようと顔にかかる髪を耳にかけるとビクと身体が震えていた。
そんなつもりはなかったが怖がらせてしまったのか、すぐに手を引っ込めた。
「…佐々山の言うとおりだ。俺が悪かった。礼を言われるような事は何一つできちゃいない。」
「面倒だから別な人に私を預けたんですか?」
「それは違う!」
「ですよね、分かってますよ。…それぐらい私にだって、分かっているんですよ。」
は少しだけ視線を傾けた。顔に表情はないのにその目が帯びた光はどこか優しく感じられる。
元気づけようと思ったが逆に慰められてしまった。
俺は何も知らないんだ、彼女のことを。知っている風で実は何もわかっていなかった。
データでは知り得ないことをもう少し知りたいとも。
ふと、車の後部座席の窓が軽く叩かれた。
軽快なリズムを刻むそれに天利と花表がやってきたことはすぐに分かる。二人はすぐに乗り込んだ。
「お待たせしましたー。」
「よろしくお願いします。」
「で、どこに行けばいいんだ?」
「ふっふっふっ…プランは完璧なのですよ!」
狡噛はそのプランについて特に知らされないまま指示通りに車を走らせた。目的地に着く頃には陽は暮れて空がやや朱らむ。
「ここ美容室じゃないのか?」
「いいからいいから!」
天利は車を降りると助手席のを引っ張り出して、背中をぐいぐい押して店に連れて行ってしまった。
それからすぐに戻ってくるが天利一人だ。
「おい、待たないのか!」
「女のコは時間がかかるんですよ。」
「でも営業時間は待ってくれない。」
「はぁ?」
「次はすぐそこのモール内でお買い物です!行きますよ狡噛さん!」
「いや、だが…」
「ちゃんは健常者だから大丈夫でしょう?私たち潜在犯は監視官なしでどこへも行けないんですから。」
花表に背中を押されて無理矢理歩かせられると、狡噛の方が連れて行かれているようだった。こうなるなら昏田を連れてくれば良かったと後悔も覚える。
その後もモール内を散々引っ掻き回し、次々と増える荷物を全て持たされ下僕のような扱いを受けた。沸点がどんどん下がっていくのを堪えひたすらに耐え忍ぶ。