第1章 File:1
自宅は比較的高層階だった。玄関の明かりをつけると内装ホログラムが自動でかかる。
全体的にモノトーンのホログラムだった。
「何もないが、まあ上がってくれ。」
先にずんずん進んで行く狡噛のあとを急いでついてくる。部屋をゆっくり見回していた。
夕陽がさす大きな窓は景色をくり抜いたように彼女には映った。
「なかなかいい眺めだろう?」
これには反応するかと思い顔を覗き込むが、彼女はただ遠くを眺めるだけだった。
諦めて狡噛は家の設備の説明や部屋を案内した。
と言っても部屋は小さなリビングと隣に寝室があるだけだった。
さらに専用の端末を渡し、通信の仕方を説明した。
彼女専用のAIを起動させ、生活の中での困りごとはAIに相談するように言った。
「こいつに頼めば、食事を含む健康管理や単なる小さな悩みも聞いてくれる。」
テレビも命じればどこでもつけてくれる。ただし風呂は映らない。所詮はホログラムなので妨害の多いところで閲覧は不可能だ。
外見は好きなものをダウンロードすれば人に似せたりキャラクターにしたりもできる。
「お前のAIだ。好きに設定してくれ。」
は手にした端末を見た。
AIホロは様々ある。有料のものは高度な機能がついていた。
いくつかホロを変えてが選んだホログラムは小鳥のキャラクターだった。
《初めまして。私はモズ。あなたの生活をサポート致します。》
モズはふわりとの目の前に飛んできて首をかしげた。
《あなたのお名前は?》
「…」
小さな声で返事をするに狡噛はどこか複雑な気持ちを抱いた。自分には全く反応しないくせにAIには答えるのかと。
モズはまたふわりと宙を舞った。
《さん。よろしくお願いします。さっそくモズを試してください。例えば…コーヒーや紅茶はいかがでしょうか?》
は少しの間モズを眺めていると狡噛が代わりにコーヒーにすると答えてモズはやや不機嫌そうにした。
《慎也さんはコーヒーですね。さんはどうしますか?》
モズはもう一度尋ねるがは首を横に振った。
《承知しました。》
再び瞼をふせるを横目に狡噛はコーヒーはブラックで濃い目にするよう指示した。