第6章 File:6
「…」
呆れと諦めの両方を孕んだ声で名を呼ぶと、彼女は俯いた顔をゆっくり上げた。
幸いなことに姿はまともだった。腕から羽軸が生えていることもない。ただ少し疲労は見られる。
狡噛はに近寄ると両肩を掴んで顔を近づけた。
その行為に宜野座が後ろで驚いているがそんなことはどうでもいい。狡噛には誰にも聞こえないように確認したいことがあった。の耳元に口を近づける。
「またなったのか?」
「…はい。」
の声は消え入りそうだった。
「羽根はどうした?」
「川に、捨てました。全部。」
たまたま側には汚染水の川が流れていた。公になる前に引き抜いて捨てたのだろう。その傷を確認するも腕には何も残っておらずそれがまた不審な点だ。一体どういうことなのか。
狡噛は顔を離してもう一度彼女の全体像を確認した。
服はホロで隠しているので羽軸が突き破った箇所も目につくことはない。良かったと言えば良かったのだが。
「何があった?」
ようやく本題を問いただす。だが大したことではなかった。
彼女は突然道に飛び出してきた猫に驚いて瞬間的に羽軸が飛び出したらしい。さらに同行していた公安局員がそれに驚き、化け物だなんだと騒ぎ立てているうちにドローンに囲まれていったらしい。ただ、公安局員のサイコパスもそれなら濁るだけで大事にはならないのではないかとも考える。
いわゆる異人を見て犯罪係数が急激に上昇するのはありえるのだろうか。そうだとしたらそれはそれで彼女の適性に問題が合ったことになるのではないか。
いろいろ疑問は残るが狡噛はの背を支えるようにして宜野座の元に連れて行った。今回は一係の案件だ。詳細は彼に任せるべきとも思う。
「猫が飛び出したのに驚いて騒ぎ立ててしまったらしい。化け物がどうのっていう点は分からんが…」
「なんだ猫か…俺は犬派だがあんな可愛らしい生き物にそう驚くこともないだろう。」
宜野座は眼鏡を光らせてを見た。
彼女はまだ怯えているらしく、ゆっくり狡噛の後ろに隠れてしまう。
「どうした?」
「猫ならもういないぞ。」
そういう問題ではないのは狡噛は気づいていた。彼女は以前に宜野座を怖いと言っていたから。
は狡噛のレイドジャケットをぎゅっと掴んで動かない。