第5章 File:5
「落ち着け。大丈夫だ。」
じゃあこれは何?と彼女の表情は訴えてくる。だが落ち着かせる他やり方がない。動揺を収められずにいると細い腕からは次々と羽軸が生えてきた。まるで芽が出るように、ただし凄まじい早さで。羽軸からはさらに羽枝が伸び始めている。は抜ける羽根から掴んでは引き抜いた。肌が赤く滲んでいる。痛みにも歯を食いしばって耐えながら羽根を抜く彼女にどうしてやれば良いか分からなかった。
ただ見ているだけというほど悔しいものはない。血のついた羽根が次々と床に捨てられていくが、新しい羽根は後から生えてくる。
感情で作用してしまうなら落ち着かせる他ない。でもどうやって。何も考えはなかった。何もないから狡噛はをそっと包むように抱きしめた。腕から溢れる羽根も全て懐にしまい込み、羽軸を折ろうとした白い手を掴んでそれを制した。目につかないように隠したかったのかもしれない。
狡噛もこの不可解な現象にどう対象して良いのか見当もつかないのだ。
は動きを止められたことによって少しずつ呼吸を安定させて大人しくなった。
「ほら、動きが止まっただろ。」
羽枝は生えてこなくなり、羽軸もこれ以上伸びなくなった。
狡噛は一枚だけ残った大きな羽根の羽枝を指先でなぞると、さらさらとして柔らかい感触だった。
「ずいぶん立派な羽根だな。」
どんな大きな鳥になってしまうのだろう。
彼の腕程はある羽根は生えてきた場所から想定するにまだ小さい部類だ。はその大きな羽根を力一杯引き抜いた。
「おい!」
まるで矢を抜いたかのように彼女の腕に真っ赤な穴が空いた。相当痛むだろうがは少し顔を歪ませるだけでその羽根を差し出した。
「欲しけりゃあげます。」
物珍しく眺めたのは否定しないが物欲しそうにはした覚えがない。だがなりの好意かもしれないと思うと無下にもできないと考えそれを受け取った。
「あ、ありがとう…。」
これをどうしろというのか、それを今考えるのも違うかと思いふと羽根のあったところに目をやる。穴からは血がじんわりと溢れていた。ハッとしてすぐタオルを持ってきては患部を強く抑えて止血する。
「もう無理に引き抜くな。穴だらけになるぞ。」
「…。」
は心底疲れたように目を伏せていた。