第5章 File:5
それならこの体に仕組まれたものは一体なんなのだろうか。
別の線で調査を進める必要があるのか。
「質問を変える。はあの保護した周辺で暮らしていたのか?」
「わかりません。」
「知らない土地だった?」
「センセイの所に来てから外に出たのが始めてなので…」
「!?」
彼女がいつ頃から親元を離れたかは分からないが、それ以降外には出ていないのだろう。そしてセンセイと呼ばれる人物。これは恐らくは病気を治す名目で彼女らが売られた時に医者という立場にいた人間のことだろう。そしてその担当医に長らく監禁されていた疑いがある。
狡噛は以前に真流からもらった医者や研究者のファイルを開き、顔写真の一覧をに見せた。
「この中にそのセンセイはいるか?」
はソファから立ち上がり近くまできてファイルを眺めた。何百人といる。一通り見てもらったがこの中にいないと言っていた。
「センセイとの暮らしについて聞きたい。」
「はい。」
「センセイはいつもいるのか?」
「いいえ。」
「定期的に来るのか?」
「…わかりません。」
「センセイがに翼をつけようとしていることは知っていたか?」
は再び黙った。目はどこを見るでもなくぼんやりとして見える。もう少し、あともう少し聞ければ。
「わからない…」
呟くような小さな声をぽつりと漏らすとは左手を右に回して肩の後ろを気にしだした。
「センセイがやったのか、わかりません。どうしてこうなってるのか…」
次第に強く掻きだし服に血が滲み出す。もう限界が迫っていた。
「そのセンセイはどこにいる?を何年もどこに閉じ込めたんだ?」
「わからない…わからない、わからない!思い出せない!」
終いには小さな子供のように叫ぶと両腕から何本もの針のようなものが飛び出した。いつもは小さな羽根が少し生えるだけだが今回は大きな羽根の羽軸だった。彼女も目にしたのは初めてだったのだろう、それをみて酷く驚いていた。
「あ…あぁ…」
両腕の異物に戸惑い混乱するは羽軸を引き抜こうとするが太いそれは深いところに根があり神経を激しく刺激して激痛となった。狼狽えながらどんどん部屋の隅に逃げていく。逃げ場を失った動物のようだ。野生ならこの場合、牙をむくだろう。